第九話・異世界!
「サラちゃんや。そこの白菜取っておくれ」
トミさんを中心に、皆で牡丹鍋の準備に取りかかっていた。
「椎茸やらのキノコ類は無いんだね。ふむ。まあ、野菜がありゃ何でもいいさね」
「シイタケ? キノコならこれでもよいか?」
サラが腰のカバンから椎茸らしきものを取り出した。
「おぉ、それでよいよい。サラちゃん、ありがとな」
トミさんに頭を撫でられて満更でもないサラ。
「ねえ、隆之くん」
「なぁに?」
「入居者のみんな、この状況を簡単に受け入れすぎじゃない?」
日本じゃないことや、魔法や、サラという妖精の存在。
多少驚きはしていたが、さして疑問にも思わず受け入れている。
「そんなことはぁ、どうでもいいんじゃないかなぁ」
「どうでもいい?」
「うん。そんなことより、楽しさの方が勝ってるんだよぉ。きっとねぇ」
「そっか。そうかもね」
日本に居たなら、特に仕事があるわけでもない。
食事や洗濯、シーツの交換までもスタッフで行う。
ただ生きているだけと嘆く人もいたくらいだ。
今の状況が楽しくて仕方ないのは舞依にも理解できた。
「だからねぇ、この世界を少し冒険するくらいは良いんじゃないかなぁ」
「だめよ! どんな危険があるか分からないのよ!」
「舞衣ちゃん。ぼく思うんだけどぉ、こうやって飛ばされてきたのには、何か意味があるんじゃないかなぁ」
「何の意味があるのよ?」
「この世界を救うんだよぉ!」
「は? 漫画の見すぎよ」
「ヒノモトブシの話あったでしょ? あれ、昔の日本人が本当に飛ばされてたとしたらぁ?」
「そ、そんなバカな話……」
「現にぼくたちはぁ、そのバカな話の真っ只中にいるんだよぉ」
「そ、そうね……」
舞衣は再認識させられた。
ここは日本ではなく、おそらく別の世界であると。
「あとで、全員の意見を聞きましょ。と言っても、三人はもう決まってたわね」
「うん。みんなサラちゃんを助けたいって言ってたねぇ」
「じゃあ、残るは一人だけね。もし反対されたら、一人だけ残しては行けない。この話は無かったことにしましょう」
「わかったぁ」
二人が今後の方針を決めたところで、待望の牡丹鍋が完成した。
日本のものとは食材が若干違うが、見た目はもう牡丹鍋そのものである。
「さあさあ、熱いうちに食べとくれ」
「おぉ、これは旨そうだな。拙者の仕留めた肉はまだまだある。思う存分食すがよい!」
「これがボタンナベの完成形か。う~ん、良い香りじゃ!」
「さっ! 食べましょ!」
その横で隆之が、お盆に取り分けた料理を乗せていた。
「舞衣ちゃん。ぼく
「お願いね。あっ、食事が終わったら、ロビーまで来てもらうように伝えておいて」
「あの人、部屋から出てくるかしらね」
「見た目は白髪紳士でイイ男なんにな。研究以外にゃ知らん顔やでね」
「一応ぼくが説明しておくねぇ。信じてもらえないかもだけどぉ……」
「それが良かろう。あやつは、何も気付いておらぬだろうからな」
隆之はその声を聞きながら食事を運んでゆく。
残った皆は牡丹鍋を囲んでいた。
「うむ! 旨い! トミさんすごいのじゃ!」
「気に入ってくれたかい?」
「ほら、サラちゃんもっとお食べよ。子供は沢山食べないとね」
「子供扱いしてるけど、お二人の年齢足しても勝てませんよ」
舞衣が小声でサラに言葉を投げた。
それと同時に階段から声が聞こえてきた。
「どう言うことかね?」
「見てもらった方が早いと思うよぉ」
「異世界などと言われて信じられるわけがないだろう!」
「そうなんだけどぉ……でも本当なんですよぉ」
隆之と並んで歩いてきたのは
年は六十五才で、入居者のなかで断トツに若い。
様々な分野で活躍し、世界的に有名な研究者だった。
ある日突然「もう飽きた」との言葉を残し引退したのである。
今は自分の好きな事を研究しているらしいが、それが何かは誰も知らない。
「異世界なんて本当にある……わけ……」
徳大寺が外の景色を見て固まった。
「どこだここは……」
「だから説明したじゃないですかぁ」
突然走り出す徳大寺。
玄関を出て周りを見渡し、体を震わせながら徳大寺が叫んだ。
「ビバ! 異世界! 私はついに夢を叶えたのだ!」
【異世界を夢見ていた研究者徳大寺がパーティーに加わった】
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爺ちゃん婆ちゃんが勇者で何が悪い?〜老人ホームで勤務中に施設ごと異世界へ飛ばされましたが皆んな元気に冒険してます!〜 かいんでる @kaindel
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