第八話・治った!

「遅いなあ。何かあったのかな?」


 思ったよりも帰りが遅いのを心配する舞衣。


「初めてだから時間かかってるのよ。きっとね」


 そんな舞衣を安心させようとするハナさん。


「そうかも知れませんね」


「皆さんが帰るまでにお昼の用意しときましょうかね」


「わたしがやりますから、ハナさんは座ってて下さいよ!」


 笑顔で調理宣言する舞衣。

 レンジで温めるだけなら舞衣にも出来るのである。


「おや? 帰って来たようだね」


 開け放した正面玄関から、地面をタイヤが踏みしめる音が聞こえてくる。

 その音が止まって、ドアの開閉音が聞こえる。


「ただいまぁ」


「無事帰って参りましたぞ」


「マイ! 素敵な食材が調達出来たんじゃ!」


「皆んなお疲れさま! で、素敵な食材って何?」


 貴之が、嬉しそうに武勇伝を語る。

 真田がその横で、得意げな表情で座っている。

 そして、サラがカバンから獣の肉を出した。


「すごい! お肉よお肉! 野菜料理しか食べられないのかと思ってたから嬉しい!」


「舞衣ちゃんお肉好きだもんねぇ」


「マイは肉食なんじゃな」


「その言い方は何か引っかかるわね。それより、貴之くん」


「なぁにぃ?」


「魔法使えたのね······」


「攻撃魔法じゃないのが残念だけどぉ、守ることが出来たのは嬉しかったよぉ」


「使えたのね······」


 舞衣の周りがドンヨリとしている。


「所で舞衣さん。湿布薬はござらんか?」


「腰痛いんですか? 無理したらダメって言ったじゃないですか」


「面目ない。あの場で何もせずにはおられんかったのでな」


「サナダのお陰で無事じゃったんじゃ。責めてやるなよ」


「そうだけど、もうお薬も少ないんですからね」


「そうだよねぇ。みんなのお薬無くなったらどうしようかぁ」


「そう。問題よね」


 二人が難しい顔で悩んでいる所へ声がかかる。


「何難しい顔しとんのや」


「あっ、トミさん」


 中野内富なかのうちとみ。通称トミさん。元は駄菓子屋を経営し、昨年引退するまで店に立っていた。


「なんだい真田。また腰痛かい」


「ちと無理をしてしもうたわい」


「まったく、年考えなよ」


 そう言うと真田の腰に手を当てる。


「痛いの痛いの飛んで行けー!」


 その時、トミさんの手が白く輝き、真田の腰を光が包んでいく。


「おっ、おっ、おぉー!」


「なんなんだい? この光は?」


 興奮する真田。

 不思議がるトミさん。


「真田さん! 大丈夫ですか!」


 舞衣が慌てて駆け寄る。


「なんと! 腰の痛みが無くなったぞ!」


「えっ?」


 サラが興味深そうにトミさんを見る。


「トミさんと言ったか。あんた治癒系の適性持っとるようじゃな」


「なんだいそれ?」


 例のごとく、貴之が楽しそうに説明する。


「日本じゃない? 人が寝てる間に、随分様変わりしちまったね。で、この魔法はどこまで出来るんだい?」


「どこまで出来るのかは分からんが、他の治癒系魔法も使えるのは間違いないじゃろ」


「舞衣ちゃん! これはすごいよ! 攻撃に防御に回復、立派な冒険者パーティーだよ!」


 自分だけ魔法を使えない事にショックを受けて真っ白になる舞衣。


「なあ坊や。ヒノモトブシじゃないとしても、これで厄災退治どうじゃ?」


「それは僕の意見だけじゃ決められないよぉ」


 舞衣が険しい顔でサラを睨む。


「入居者の皆さんを危険な目に合わせる訳にはいきません! 却下です! 却下!」


 そんな舞衣に真田が意見する。


「舞衣さん。わしらは日本での役目が終わり、後はこのまま朽ち果てるのみだと思うておった。だが、この世界で新たな力を得て、その力を必要としてくれる人たちがおる。拙者はそれが嬉しいのだ。わしらが生きていく意味、その価値があるのだと言うことが嬉しいのだ」


「そうよね。サラちゃん困ってるようだしね。わたしの火の玉で救えるなら、救ってあげたいわ」


 ハナさんが嬉しそうに笑う。


「まだピンときてないが、子供が困ってるのを放ってはおけないよ。真田が言うたように、まだ役に立てるなら喜んで助けになるよ」


 トミさんがサラの頭を撫でる。


「で、でも、そんな危険な事を」


「舞衣さんや。ここはもう日本じゃない。帰れるかどうかも分からぬのだ。もう一度、この年寄りたちに夢を見させて貰えぬか」


 ハナさんとトミさんが頷く。


「ちょっと、考えさせてください」


 皆んなの言いたい事が舞衣には痛いほど分かる。が、それを簡単に受け入れることは出来なかった。


「ねぇ、その事はまた皆んなで考えようよぉ。それよりぃ、今は牡丹鍋だよぉ!」


「そうじゃったな。ハナさんやトミさんは、牡丹鍋の作り方を知っておるかの?」


「わたしは良く知らないわねえ。トミさんはご存知?」


「任せときな! 小さい時に、よく食べてたもんさ」


「トミさんが知ってるのか! なら、作り方を教えて欲しいんじゃが」


「おや、サラちゃんが作るのかい? じゃあ一緒に作るかい? 孫が出来たみたいで嬉しいねえ」


 入居者の皆んなは、とても楽しそうに笑っていた。


 【勇者トミがパーティーに加わった】

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