第七話・守らなきゃ!

 一時は危機を脱したと思われた食材調達チーム。

 しかし、獣は立ち上がり、真田とサラに向かって走り出した。


「サラ殿! 拙者の後ろに!」


「どうするんじゃ! サナダ!」


「拙者の背中を支えてくれ。迎え撃つ!」


「分かった!」


 サラが真田の背中を支えると、刀を鞘に戻し構える真田。


「吼えろ! 朱雀!」


 居合で振り抜いた刀から、先程よりも大きな斬撃が飛ぶ。

 斬撃が獣の鼻先に命中。が、獣のスピードがほんの少し落ちただけで、突進を止める事は出来なかった。


「む、無念……せめてサラ殿だけでも」


 そう言うと、背中のサラを掴んで横へ投げ飛ばす。


「サナダー!」


 獣が真田に牙を突き刺そうとした正にその時、貴之が叫んだ。


「ダメだよ……そんなのダメだーー!」


 そう言って伸ばした貴之の右手が黄金に光る。

 貴之の右手が光ったと同時に、真田を包み込むように半透明のドームが現れた。


「な、なんじゃ、これは?」


 真田に攻撃を仕掛けた獣は、そのドームに弾かれて動きを止めた。

 何が起こったのか分からない獣は、再び真田に襲いかかる。


「ふむ。これは勝機!」


 刀を正面に構え集中する真田。

 その目前に獣が迫った。

 その気配を感じた真田が目を見開く。


「貫け! 朱雀!」


 突きを繰り出した刀から、赤い光柱が獣に向かって飛んだ。

 その光柱は獣の眉間を貫き、そのまま空へと消えていった。

 そして、獣が音を立てて、その場に崩れ落ちた。


「真田さん! 大丈夫ですかぁ!」


「うむ。大事ない」


「今のは、坊やの仕業か?」


 貴之が右手を見つめる。


「真田さんを守らなきゃって思ったらぁ、何か右手が光ったんだぁ。サラ、何か分かるぅ?」


「見たことも聞いたこともない。わたしも、全ての魔法を知ってる訳じゃないしな」


「そうか。貴之殿の助けであったか。かたじけない」


 真田が深々とお辞儀する。


「真田さんが助かって良かったぁ」


「何はともあれ、これで肉が手に入ったな。これがまた美味い肉なんじゃ」


「イノシシみたいなもんかの。牡丹鍋じゃな!」


「でも、どうやって調理したらいいのぉ? 解体なんてした事ないよぉ」


「心配ないぞ。わたしは攻撃魔法はサッパリじゃが、調理系の魔法なら得意じゃ! 解体も任せておけ」


 そう言うと、サラが獣に向かって両手をかざす。

 その手から出た薄い膜のような物が獣を包み込む。

 膜の中で小さな光が飛び交うと、獣が次々と解体されていき、部位ごとに仕分けられて膜に包まれていく。


「サラすごいねぇ」


「見事である」


「よし! 後はカバンに入れて終いじゃ」


「楽しみだねぇ」


「サナダが言っておった牡丹鍋とはどんなもんじゃ?」


「野菜とぉ、イノシシのお肉で作る鍋だよぉ」


「ナベと言うものがよく分からんが、マイに手伝ってもらえばよいか」


 貴之の顔が青ざめる。


「サ、サラ……。それはやめといた方がいいよぉ……」


「なんでじゃ?」


「そのぉ、舞衣ちゃんはぁ、料理の腕が壊滅的なんだよぉ……」


 以前、スタッフのパーティーで出てきたカレーを思い出す貴之。

 見た目も香りも普通のカレーなのだが、一口で悶絶させる力があった。

 料理をまともにしたことがないのに、カレーくらい簡単に作れると味見もしなかった舞衣。

 その日から、舞衣が包丁を持つことは無かった。


「そうだぁ! ハナさんたちに聞けばいいんだよぉ」


「そうか。じゃあ帰ってから聞くとするか。作り方が分かれば大丈夫じゃ」


 三人は、牡丹鍋に思いを馳せながら野菜などの収穫に向かった。


「へぇ〜、僕たちが食べてた野菜と似てるねぇ」


「確かに。日本の野菜と大差ないように見える」


「あまり取りすぎるなよ。無駄に取るのは森の精霊に失礼じゃからな」


「分かったよぉ」


「御意」


 牡丹鍋の材料になりそうな野菜。

 サラダになりそうな野菜。

 ミカンやリンゴのような果物をカバンに収納して作業を終了した。


「今日のところはこれで帰ろうかぁ」


「そうだな。足りなくなったらまた来ればいい」


「その時は拙者も同行いたす」


 朱雀を撫でながら楽しそうにしている真田。


「じゃあ、陽光園に帰ろうかぁ。舞衣ちゃんビックリするだろうなぁ」


 獣に襲われたものの、貴之にも魔法の適性があると分かり、実に有意義な食材調達となった。


【ポンコツ貴之が守れる勇者貴之になった】

【野菜、果物、牡丹鍋の材料を手に入れた】

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