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 希望は帰り道を歩いていた。ふと、希望は思った。30年前、この道はどうだったんだろう。この辺りの住宅地はどんな様子だったんだろう。あの瞬間、がれきの山になったんだろうか? どれぐらいの犠牲者が出たんだろう。そして人々は、立ちのぼる煙を見て、何を思ったんだろう。それから、どんな様子で神戸の風景を見ていたんだろう。


 希望は家の前にやって来た。その家は、阪神・淡路大震災の後に建てられたという。この家は強い地震にも耐えられるそうだ。


「ただいまー」


 家に入ると、母がやって来た。母はエプロンをつけている。昼食を作っているようだ。


「おかえりー。何してたの?」

「ちょっと友達の所に行ってた」


 だが、希望は何をしていたのか、全く言わなかった。あのモニュメントはきっと、阪神・淡路大震災を知らない世代へのメッセージだ。誰にも言わないようにしよう。


「そう・・・」


 と、母は手を叩いた。何かを思い出したかのようだ。


「あっ、今日はルミナリエに行こうか?」

「うん!」


 希望は驚いた。まさか、今日は神戸ルミナリエに行くとは。去年も行ったけれど、そのメッセージを知った希望にとっては、また違う理由で感動するだろう。どちらにしろ、今日は楽しみだな。




 その夜、希望とその両親は神戸市営地下鉄西神・山手線に乗っていた。神戸市営地下鉄西神・山手線は、北区の谷上駅から新神戸、三宮、新長田を経由して西神中央までを結んでいる。阪神・淡路大震災が起きた時、一部が不通、もしくは単線運転となったという。それからの事、電車は生まれ変わり、北神急行電鉄が神戸市営地下鉄北神線になった。地下鉄は変わりゆくが、あの日の記憶はしっかりと受け継がれているだろう。


 3人は三宮駅にやって来た。三宮はJR、阪神電車、阪急電車、ポートライナーとの乗換駅で、徒歩連絡で海岸線の三宮・花時計前にも乗り換えられる。三宮駅周辺は多くの人が来ている。彼らはルミナリエを見るためにやって来たようだ。希望は思った。ここに来ている人々は、ルミナリエが行われる意味を知っているんだろうか? 阪神・淡路大震災を知っているんだろうか? そして、犠牲者の事をどう思っているんだろうか?


 3人はルミナリエの会場にやって来た。ルミナリエには多くの人が来ている。その中には、豚まんを食べている人もいる。彼らはイルミネーションを見て、感動している。今年のルミナリエは30年目という事で規模を拡大している。その中には、地元に住んでいる、または出身の人々もいる。彼らは別の意味でイルミネーションを見ている。


「これがルミナリエか」


 3人はイルミネーションを見て、感動した。毎年見ているが、今年はいつも以上に素晴らしい。阪神・淡路大震災から30年が経ったんだと思うと、徐々に記憶が失われていくのではと不安に思う。だけど、忘れないでほしい。30年前、この神戸が火の海に包まれ、がれきの山となり、6000人以上が犠牲になったんだと。


「今年で30年、あれからもう30年が経ったのね」

「ああ」


 2人は阪神・淡路大震災を思い出した。忘れたくても、忘れられない。だがそれは、阪神・淡路大震災を忘れずに、語り継いでいかなければならない使命がそうさせているのだろう。


「これからもずっと、忘れないでほしいね」


 希望の父は阪急の神戸三宮駅を思い出した。2021年、阪神・淡路大震災で倒壊し、その後解体されてしまった。また完成した時、やっと阪急の神戸三宮駅も元に戻ったと感じた。


 希望の母は辺りを見渡した。この辺りは阪神・淡路大震災が起きた時、どんな状況だったんだろう。倒壊したんだろうか? あちこちで火災が起きたんだろうか? 全くわからない。


「今から30年前、この神戸は焼け野原になった。だけど人々は助け合い、そして勇気づけて復興していった。その時の絆、いつまでも忘れないでほしい」

「ルミナリエを見るたび、1.17の集いを見るたび、1995年1月17日にこんな事があったんだと、後世に語り継がなければ。それが未来を生きる人々の使命なのだ」


 そして、今年も神戸ルミナリエは光り続ける。あの日の記憶を忘れないように。そして、復興していく神戸を見つめながら。

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KOBE MEMORIES 口羽龍 @ryo_kuchiba

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