……原因不明

@mia

第1話

 明日明後日と仕事はお休み。

 ゆっくりお風呂に入って昼間の疲れを取った後ドラマの録画を見ようと思ったら、右のつま先が痛い。すごい痛いというわけではなくズキズキというかジンジンというか、そんな感じで痛みがある。思わず左右のつま先を見比べれば、お風呂に入って温まって赤くなっているが特に違いはない。

 今日のことを思い返すと、今日は倉庫の片付けをするから汚れてもいい動きやすい服装で来るようにと言われていた 。私はいつも犬の散歩で履いている靴で行った。  

あれは履き慣れているのできついとか痛いとか全然ない。

 ダンボール箱を事務所から倉庫へ運んだ。箱を足に落とした、落とされたなどはなかった。何かに蹴つまづいて、つま先を痛めたということもない。

 だが、一つ思い当たることがあった。


 運び終わってから、いくつかのグループに分かれて倉庫と事務所の周りの草むしりをすることになった。草むしりと言っても刈払機で刈るだけだ。

 私のグループは倉庫の裏だった。誰もこんなところに来ないとは思ったが、業務命令だし。

 刈払い機は担当の人がいるので私たちは石やゴミなどがないか確認する。

 その時に右足で何かを蹴った。見ると牛乳ビンだった。牛乳ビンに枯れた花が差してあった。牛乳ビンは汚れていて最近置いたものではなさそうだった。

 なぜこんなところに、と思っていたら一緒のグループの女性がキャーと叫ぶ。彼女は何かを踏んだらしい。見ると何かが入ったビニール袋だった。軍手をはめた手でも触るのが嫌になるような色となっていた。

「くそ!」怒鳴り声に目をやると一緒のグループの男性が転んでいた。彼は立ち上がると思いっきり蹴った。石だった。彼は何回も石を蹴って雑草を刈る範囲から出した。

『石に八つ当たりしても……』とは思ったが、口には出さない。会社は人間関係が大事。

 その後、刈払機担当を呼びに行き作業を終えた。


 今日つま先が関係あるといったらそれくらいしか思い当たらない。

 それほどでもない痛みとドラマだったら、ドラマだ。観ている間につま先の痛みは気にならなくなった。

 出社する時には痛みはなくなっていたので、つま先のことはすっかり忘れていた。


 会社に着くといつもよりざわついている。同僚に聞くと別の課の男性社員が入院したらしい。草むしりの時の彼だ。

 足の激痛で歩けなくて救急車を呼び即入院となった。原因は検査をしてもわからないと、会社に電話してきた彼のお母さんが言っていたそうだ。会社で何があったのかすごく聞かれたらしい。電話を受けた人もとても困っていた。

 私は嫌な考えが浮かんだが考えを打ち消すように首を振る。

 あの時一緒だった女性に話を聞きに行こうと思ったがやめた。もし彼女の足にも何かあったら、あの時あそこにいた人たちが被害にあっているということだ。

 もしそうだったとしても私にはどうすることもできない。

 できないが、黙っているのも苦しいのでさりげなく石を蹴っていたと話をしたが、 誰にも相手にされなかった。

 

 その後、彼は休職になったと聞いた。

 あの時の彼女を見かけたが元気そうだった。私もつま先の痛みなく過ごしている。

 社史や郷土史を見る機会があったが、特に気になることは書いていなかった。

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