箪笥

錦木

箪笥

 我が家には昔ながらの箪笥たんすがある。

 私の祖母のものだがなかなかの年代物で、何でも祖母の祖母の代……つまり私の知らない昔々からあるそうだ。

 このあたりは戦時中空襲で火の海になったそうだが不思議なことに家財の中でこの箪笥だけは無事に焼け残ったという。

 木に飴を塗ったような和風な茶色の箪笥は祖母のお気に入りだった。


 小学生の頃、私はよくつま先立ちをして箪笥の上に置いてあった飾り物を取った。

 それは女の子の人形だった。

 色鮮やかな着物に身を包み、帯や髪留めまで見事な日本人形。

 ちょうど腕の中におさまる大きさのそれを赤子をあやすように私は抱きかかえて遊んだものだった。

 箪笥は祖母のお気に入りなので触らないように言われていた。

 けれども触るなと言われれば触りたくなるのが子どもというものだろう。

 祖母に知られたら叱られる。

 愚かだが禁断の遊びは蜜の味だった。


 久しぶりに祖母の家に来たので箪笥の上の人形を見たくなった。

 箪笥の上に向かって手を伸ばす。

 あれ?おかしいな。

 違和感があった。

 私小学生の頃からずいぶん身長が伸びたはずなのに。

 つま先立ちしないと箪笥の上に手が届かない。

 箪笥の背が高くなったような。

 そんなまさか、と思うけれど。

 見えない場所を手で探ると何かが指先に当たった。

 何?この感触。

 自分の目線からでは見えないけれどわかる。

 それはまるで手のような形をしている。

 それは、冷たい感触で手を握ってきた。


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箪笥 錦木 @book2017

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