第3話

そして池の中央付近の水中から、何かが出てきた。

――手?

それはどうしても人間の手としか思えないものだった。

白く鈍く光っていて、その大きさが十メートルはあった。

――!

やがてその手は水中に消え、池の水面の鈍い光も消えた。

その後はなにもなかった。

時計を見ると、十一時五十分だった。


翌日から増山の捜索が一応始まった。

一応というのは、みなまったくやる気がないからだ。

捜索関係者の全員が、増山が昨日池に行ったと思っていた。

それはみなにとっては「もうあきらめろ」「かかわるな」という意味なのだ。

形ばかりの捜索が少し続いたが、それもすぐに終了となった。


増山の代わりが来た。

飯塚という男だ。

増山もチャラかったが、さらにチャラかった。

ただ仕事は思いのほかできるやつだった。


増山がいなくなって半年が過ぎたころ、現地の社員がまた真剣な目で言ってきた。

「三日後、近くの池には絶対に近づかないでくださいね」

それを聞いた飯塚が言った。

「池に近づくなって、どういうことでしょうね」

「知らん」

「三日後かあ。行ってみようかなあ」

「やめとけ」

俺はそう言ったが、三日後は一日中、飯塚を見張ることにした。

もちろん離れたところから見ているだけだ。

それ以外はなにもしない。

そうすれば、なにか面白いものが見れるかもしれないからだ。



       終

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池の主 ツヨシ @kunkunkonkon

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