眠り姫の告解

藍染 迅@「🍚🥢飯屋」コミカライズ進行中

目覚めると知らない顔――誰やお前?

 ウチは目を覚ました。なんか長いこと寝とった気がする。目を開けるのも一苦労やわ。

 薄っすら目を開けてみた。まぶしっ!

 

 光に目が慣れてきたら、誰かの顔が見えてきた。 いや、近い、近い!

 え? 嘘や、この人唇から糸引いてる! えっ? その糸ってウチの唇につながってる? えぇえええ?

 

「お前、なにしてんねん!」

 

 あちゃあ、いったん落ちつこうか。ごめんな、いきなり殴って。

 

 あんたはこの国の王子はんで、茨に囲まれた伝説の城の前を通りかかったと。近所のオバンに聞いたら、この城には呪いがかかってて、中には美少女が眠っとると。それってウチのこと?

 100年の眠りから覚めるには、誰かのくちづけを受けなければならないやて? く、くちづけて!

 で、ここはいっちょいったろ思って現在に至る? 本人の気持ちも確かめんと乙女の唇奪うて、ナニしてくれてんねん! 不同意性行為やんか!

 なんやったらウチまだ15やぞ! ……法的には115かもしれへんけど。

 

 まあ、王子はセクハラ認定やけど、命の恩人には違いない。ここはお礼ゆうとこ。おおきにな。

 そやけど、ウチなんで100年も寝てたんやったっけ? 呪い?

 あ! 13番目の魔女に呪われたて、オカンがいつもゆうてたわ。

 ウチが生まれたとき、王国はえらい祝賀ムードやったて聞いたな。オトンが王様やからな。

 ほんで盛大に誕生パーティを開いて、あっちゃこっちゃのえらいはんをぎょうさん呼んだゆうて。

 そん中に「13人の魔女」ゆうのがおって、なんやら手違いで12人にしか招待状が届かへんかったそうや。

 ほなら13人目の魔女がブチ切れて、誕生パーティにカチコミかけよってな。えらい騒ぎや。

 

「コラ、クソ国王と王妃! えらい恥かかせてくれたな! そのクソガキ、15になったら死んでまうゆう呪いかけたるわ!」ゆうて、おっそろしい呪文唱えよったらしい。

 

 なんちゅうケツの穴のちっさい魔女やねん。こっちは謝っとるゆうてんねん。ごめんしたれや、ホンマに。

 そのままやったらほんまに15歳で短い生涯閉じるとこやったけど、その後12人目の魔女はんが遅れてきはったそうや。

 

「この呪いは強すぎて、わたいには解けまへん。せやけど、なんとか弱めることはできます」ゆうてな。

 

 ほんまやったら死んでまうところを、100年眠る結末に変えてくれはったんや。12人目はん、おおきにやで。

 せやけど、100年眠るてごっついなぁ。ウチだけとちごうて、城におったもんは全員眠っとったらしいで。

 

 オトンもオカンも、家来たちもゴソゴソ起きて来て、セクハラ王子とご対面や。

 

「おお、あんたはんが呪い解いてくれはりましたん?」ゆうて、えらい感謝や。そいつ、セクハラやで?

 

 100年も眠らされたんは災難やけど、本人からしたら寝て起きただけやからね。実感ないし。

 地下室に置いとったワインは全部100年ものの希少ワインになっとるから大儲けや。

 

 とりあえず、お目覚めパーティーでも開いたろかってことになったんや。飲めや歌えやで騒いでたら、セクハラ王子からとんでもない暴露話や。

 

「あなた方の王国は既に滅び、現在この国を治めているのはわたしの父だ」

 

 ウチらの国もうあらへんがな! オトンの顔が真っ青や。兵隊もおらんから国を奪い返すこともできへんしな。

 えっ、ナニ? うちの娘どないでっしゃろ? いきなりの政略結婚やん! セクハラ王子は嫌やぁあー!

 ウチは一人になりたくて、高い塔のてっぺんに駆け上った。


 セクハラ王子と結婚すれば、また王族に戻れる? 知らんがな!

 兵士も領民も、みんなおらんようなってるんやんか。王族やゆうても、誰もついて来てくれへんで?

 ほんで旦那がセクハラ野郎ってなによ? なんのロマンもあらへんわ。ウチ、そんなんやってられへん。

 ほな、どうしょう?


 あれま? 一人にしてってゆうたのに、上がって来よったわ、この男。オトンとオカン、なんで通したかなぁ?

 やばい、やばい。口では「大丈夫か?」とかゆうてるけど、明らかに体ねろとるで、あの目ぇは。

 あかん。手ぇ出すなて。触んなて。

 やばい、追い詰められた。もう、部屋の隅や。うん? いま手に当たったのは……。

 あ、これあのときの「糸車」やんか!

 そうゆうたらこれっていまどうゆう状態? ウチらにかかった眠りの呪いは解けたけど、そもそもは糸車の錘に刺されて死ぬはずやったんやわ。

 そっちは眠りの方とは関係ないで? セクハラのキッスは目覚ましの役しただけやもん。

 つまり、この錘に刺されたらいまでも人が死ぬんちゃう?


 ――ふうん。覚悟はええか、セクハラ王子?


 とがった錘の先でセクハラ王子の手をちくり。触んなゆうてんのに触ってくる方が悪い。正当防衛や。

 セクハラ野郎は驚いた顔のままで床に転がっとる。うん、脈も息もないわ。

 

 ――邪魔やな、これ。 オトン呼んでこよ。


 セクハラ王子の死体を見せたら、さすがにオトンも引いとった。政略結婚の作戦がパアやて。驚く理由がそっちかい!

 でもな、オトン。物は考えようやで。セクハラ王子、ぎょうさん金目のもん運んできとるで?

 それからウチはオトン、オカンと一緒になってそれから先のことを相談した。


 ウチのところには、それからも定期的にあっちこっちの王子はんらがやってきはった。そしたら「二人でお話しましょか」ゆうて、塔に登ってな。手ぇ出してきたところを、錘でちくんや。

 しゃあないなぁ。正当防衛やさかい。


 おかげでウチの家族は富に恵まれ、幸せに暮らしたとさ。めでたし、めでたし。<了>

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