配信第三回 望

第7話 恋は盲目なりて、命を賭す価値が価値あらんや?

「ん? 美咲からLINEだ。なんだこれ?」

 

[願いが叶うURLだって! 興味があったら見て]

 

 幼馴染、そして恋心を抱いている相手からの連絡、どんなドッキリかは分からないが開かざるおえないだろう。それがネタになり、また明日学校で話す機会ができる。溝口瑛太みぞぐちえいた、16歳。この恋はなんとなく実らないだろうという事も分かっていた。きっと告白だってできないんだろう。

 だから、少しでも美咲との時間を楽しんでいたかった。だからそのURLにアクセスしてみる事にした。ポイ活か何かでURLの先で会員登録を瑛太がすれば美咲にいくらかポイントが還元されるのだろうか? 

 

『やっほー! 人間、長生きしてるぅ? 今日は、この新商品のラムネを食べてみまー』

 

「何これ? 誰の配信? 流行ってんの?」

 

 演者の女の子は和服をピープス系? 原宿系の亜種みたいな格好。左に四つ、右に三つピアスが目立ち肩までの黒髪、インナーに赤とシルバーのカラーを入れている。小さな赤い帽子状のヘッドドレス。肌は生白く異様な程に綺麗な顔立ちをしている。

 しっかし、しかしである。彼女の配信は……

 

「つまんねー」

 

 トークが上手いわけでもなく、何も新しくもなく、使い古された上にこれまた面白くない内容。あくびが出てしまう。コメント欄は絶賛の嵐、可愛いは正義とはこの事かと思って画面を消そうとした時、彼女と目が合った。

 カラコンなのか、澱んだ真紅の瞳。不思議と目が離せない。

 

「すんごい綺麗な子だなぁ」

『マジで? いつも言われるぅ!』

「!! 偶然か、びびった!」


 コメントに反応してそう言ったのだと瞬時に理解したが、瑛太の言葉は早々に否定される事になる。目の前の少女は瑛太と目を合わせながら、ボロボロと新商品のお菓子をこぼしつつこう言った。

 

 

『いやいや、ボクは君の発言に反応したんだぜぇ! どうだい? 君の願いを叶えてやろうか? もちろん代償はいただく、君の命さ! どうだい? 命をかけてもいい願いがあればすぐにでもボクは君の力になるぜ?』

「なんだこれ? 本当に俺の言葉が届いてんの? ライブチャット?」

『いいねーいいねぇ! 最近の若いもんは順応力高くて助かるよ。どうする? 願い叶えるかい?』

 

 命をかけてまで叶えたい願いなんて……瑛太には……あった。少女と見つめ合う。彼女の瞳は空虚だ。どんな感情も感じない。笑っているのに瞳に感情も生気も何も無い。故に美しい。作り物のようなそれに目が離せない。そして瞬きをした時、彼女がスマホの画面から消えた。

 離席をしたのだろうか? いや、自分しかいない筈の部屋に気配を感じる。そして甘い果実のような香りがする。

 

 ふっ! 耳に息を吹きかけられた。

 

「うわっ!」

「いいねー。最高の反応をありがとう! で? 君の叶えたい願いはなんだい? 名前は……ええっと」

「俺は瑛太。溝口瑛太」

「そうだ。瑛太だ! 忘れてた!」

 

 と、てへぺろし瑛太の名前なんか知らないハズなのに外国映画ばりの冗談を言う少女。そしてゆっくりと頭が状況に追いついてくると、異常事態に気が動転し、叫びそうになった時、少女が瑛太の口を押さえる。

 

「オーケー、オーケー! 落ち着いて、ボクは願いを叶えて命をもらう存在。今は動画配信で認知度絶賛上昇中さ! そのうち、SNS系にも進出しよーかなーって思ってんの、まぁボクの事はなんでもいいさ。赤ずきんちゃんとかレッドキャップとか、人によってはデストラクターとか、大概の人はしずきって呼ぶよ。で? 君の願いはなんだい?」

 

 瑛太の願い。

 じっと彼女の事を見つめる。とても綺麗で、抱きしめたら柔らかく、そして壊れてしまいそうな程に華奢。そんな事を考えていると、

 

「ボクと死んでもいいからヤリたいとか? もしそうなら、別の子を紹介してやんよ? サキュバスっていう、悪魔のコスプレをした性欲願望を叶えてくれる子が知り合いにいてね。あんまりオススメはしないけどね。あの子は人間を餌か何かとしか思ってないからね。という事でボクでの性処理を言うのであれば、この話はなかった事にしよう。まぁ、じゃないんだろう? ボクとヤリたいなんて言う連中の元にボクはこうして姿を現さないんだ」

 

 瑛太は少し恥ずかしくなる。本能というべきか、想い人がいるのに、確かに少しだけ目の前の彼女が可愛いと情欲を感じていた。そして、この瞬間的な感情ではなく、瑛太には命を賭してもいいと思える願いがあった。

 

「赤ずきんちゃん、俺は、幼馴染の矢野美咲やのみさきが欲しい。だから、力を貸してくれないか? 美咲と付き合えたら俺の人生そこで終わってもいいや」

「マーヴェラス! 任せてくれたまえ!」

 

 ヘラヘラと笑いながら、胸に手を当てて赤ずきんちゃん事、零は執事のように瑛太に傅いた。そしてぐりんと顔を上げると零は瑛太を見つめる。

 

「瑛太くん、その美咲という子と何処まで行きたいんだい?」

「何処まで?」

「死語で言えば、AとかBとかってやつだよ。ちなみにAはキス、Bは愛撫さ。そしてどうZに持って行きたいんだい? Zは最期だね。ボクはそれをプロデュースしよう! Cかい? まさか、Eとか言っちゃうのかい!」

 

 零は瑛太が幼馴染の美咲と付き合い、何処までいき、どう死ぬのか、それを全て叶えてくれるという。最終的に瑛太は死ぬ、と分かっていながらもこの零の異様なまでのフレンドリーさとサービス精神に瑛太はなんだか笑えてきた。

 

「キスとか、エッチとか恋人になりたいとかじゃないんだ。多分、俺は美咲の恋人にはなれないだから、俺は美咲が欲しい。そう思えたら、死んでもいい」

「オーケイ、オーケイ! じゃあどうすれば美咲って子が君のものになるか、考えようか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤頭巾動画背信奇談(ア・バオ・ア・クゥー) アヌビス兄さん @sesyato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画