憧れと現実
のあ
第1話
「あとどれくらい?」
「まだ半分も終わってませーん」
結構やったはずなのにまだまだ残っているという現実を前に、ただひたすらに手を進める。今は生徒会の1年生で文化祭のアンケート集計をやっている。先輩方は早々に打ち上げがあるからと言って去っていった。全校生徒に来場者の分まであるためかなりの量だが毎年そんなに時間かからないと聞いていた。にも関わらずもう夕方くらいになっている。今日は片付けだけの午前中で帰れるはずだった。ということで1年生で居残り作業、まあ面倒事を押し付けられる形にはなっているが頑張ってやっている。もう一人の生徒会1年と二人で。
「これって明日来ても開けてくれるのかな」
「いつも通り聞いてみて無理だったら持ち帰りだな」
うちの学校では生徒会は部活動と同じように簡単に入ることができる。だから先輩方は何人もいるのになぜか1年だけ二人しか入ってこなかった。それなのに仕事量は変わらないんだからこの有り様である。居残り作業からの持ち帰りというのももう慣れてしまった。毎回持ち帰りは良くないと先生には言われるが、この現状で大目に見てくれているらしい。学校的にもあまり良くないらしく先生も秘密だからなとのことで先輩にも話しておらず、協力は受けられない。最初に持ち帰りたいと言ったことはずっと後悔している。
「もう少し効率よくできたりしないかな?」
「これが限界じゃないかな、手も休めてないし」
「じゃあ持ち帰りでいいや。ちょっと話聞いてよ」
「俺はもう少し頑張りたいからこのままでいいならどうぞ」
これもまた持ち帰りになってしまう原因だ。疲れたら話し始め、そのまま帰りまで話し続けてしまうからそれ以降はほとんど手が進まない。一応やりながら聞くとは言うが話のほうに集中してしまう。でも今日は本当に進んでいないのでできるところまで頑張りたい。
「大学のサークルって適当な場所に集まるんだってね。だからこういう作業も時間関係なく最後までできるのいいなって」
「こんな作業ないのが一番いいじゃん」
「でもこれが家でできるなら良くない?大学生になったら一人暮らししてるんだし邪魔されること何もなく集中できるんだよ?」
「どうせ途中で飽きて終わらないのに?それに家にそんなに人呼ぶの嫌じゃないの?」
「一人呼ぶくらいなら別に大丈夫だよ」
「じゃあそんなときに呼べるだけの相手が見つかるといいね」
「そうだね、それが不安だなぁ」
そう言って珍しく黙ってしまった。まあ物思いにふけることだってあるだろう。こちらもまた改めて集中して作業を進める。
「それだけ話せればちゃんと見つかるよ」
「そうかな?突然褒めてくれるね」
「適当なこと言ってると作業進むから」
「ちょっと喜んだ私がバカじゃん!」
こんな会話ができるから居残り作業も悪くないと思う。
「今の私たちが大学生だったらいいのにな」
「俺の家には入れないけど」
「私の家には呼ぶよ」
「そんな気軽に男呼ぶなよ」
「私って気軽に男呼ぶような女にみえてるの?」
「男女関係なく仲良くするってだけだよ、でも男も家に呼ぶのはよくないと思う」
「それくらいはわかってるって、ちゃんと呼ぶ相手は選ぶし」
「生徒会に入るくらいだしそれくらいはわかってるか」
「私への評価はもう少し見直してほしいな」
「見直してほしいなら手を動かしてもらいたいね」
「もう今日は無理!それよりも早く出て二人でちょっとした打ち上げでもしようよ」
黙々と作業してたつもりだがやっぱり文化祭の打ち上げには憧れがある。今日くらいは彼女のペースに飲まれて現実逃避も悪くないかもしれない。
「打ち上げはしたいし少し早く終わるか、先生に言ってくるから片付けしておいて」
「褒めてくれたり今日は少し優しいじゃん、片付けは任せて!」
憧れと現実 のあ @noaddr
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