伝えられなくても、分からなくても…

男が銃を素早く引き、若者に向けた瞬間、男は脳天を貫かれ、片手に持っていた妻の生首がボウリングボールのようにボトンと落ちる。


「おい。早くイデアエスケープを止めるんだ」


横からは、白衣を着ている僕と同じ苗字の名札をした男がいた。


「えっ」


「ああ、俺の紹介は後だ」


そういって、彼は僕の手を引っ張ってゆく。


外に出ると、シャットダウン機能を壊され、必死に転移を防いでいる様子があった。


「シャットダウンが壊された後は、世界419の運用停止を死守するのだろう?」


彼はそういって車に乗り込む。


「はい。そうですが」


「なら、俺と口裏を合わせろ。社長は世界419の責任を取り、機能停止をすると言っていた。とな!」


「え、でも…」


「あれを見てまだそんなことを言うか?」


「…そうですね」


あの人は、少しずつおかしくなっていた。


最初は、僕を拾ってくれた優しい人だったのに。


なんで、こんなことになったのだろう。


研究所につき、あわただしいサイバー戦争が繰り広げられている研究所の様子があった。


「おい!帰ってきたか。社長はつれてきたか?」


「いえ、社長は責任を取って機能停止をすると言っていました」


「…本当か?」


「いや、ソイツが言っていることはでたらめだよ」


横にいる彼がこういった。


「はぁ?」


まさか、裏切られたのか?


「社長は、彼らと外交を取り、我々とともにイデアエスケープをすると言っていました」


「そうか、やはり社長は!!」


研究室は歓喜に満ち溢れる。


それと共に、僕は警備員に連れられた


「おい、まて、ソイツに騙されるな!」


僕はそのまま、一時的に軟禁されてしまった。


しかし、彼はすぐに僕の元へやってきたのだ。


「すまない。少し手荒なことをした」


「あれから何をした…お前は誰だ!」


「俺は、未来、いや。あの時に真っ先に銃を撃った勇気のあるお前だよ」


「はぁ?信じられるか」


「いや、お前は見てきたはずだ。世界419の構想概念のエキスパートだろう?」


「…つまり、お前は僕らにイデアエスケープをすると?」


「ああ、そうだ」


僕は少し考えてみる。


いや、考えていたことはずっとあった。


でも、そのたびに頭が痛くなって…


僕らもシャットダウンさせられるかと思って…


「そこで、俺らはイデアエスケープをしてきた連中。まあAとしよう。Aにその他の世界419と共に総戦力で戦うことにした」


「でも、勝てなかったらどうするんだ!」


「大丈夫だ。実際。お前たちは無限の軍勢に敗北してしまった。その原因は戦力が無限であるということだ」


「つまり、僕たちは既に五次元飼育技術を身に着けているから、無限の戦力があると?」


「そうだ。つまり、シャットダウンさえ破壊すれば、後は持久戦であるということだ」


「なるほど」


僕は軟禁から解放され、現状を知った。


イデアエスケープにおいて、成功率が高い状態があるということだ。


それは、まるで僕たちの世界のようだった。


一。臨界点を超えた世界線が存在している。つまり、臨界点をある程度超えてもシャットダウンがされていないという事。


しかし、これはイデアが存在する限り達成しているということになる。


二。五次元飼育に手を出している。これは彼がいることが最大の証拠となる。


三。過去への転移が可能であるか否か。


現状、これだけが問題である。これができてしまうの出れば、戦力差が優位に立たないからだ。


しかし、彼と僕の年はさほど変わらないように見える。


つまり、杜撰な経営体制と、違法な危険性を孕んでいるエントロピーの法則が存在する管理世界であれば突破が可能ということとなる。


そこで、シャットダウン攻略について、出来るだけ情報を収集した。


そこで、僕たちの世界に攻め込んできたAの僕たちの世界への攻略倍率(技術の差に対する人数差)を調べると、大体技術に対してその10の52乗ほどの人数がいたら攻略できると判明。しかし、技術を調べることができないので、無理だった。


ではここで、三つの条件の内、シャットダウン攻略について技術結集をし、最大戦力で挑むという一か八かの戦略に出た。


過去から未来に関しては、自然と流れることができるが、そのうちのシャットダウンのギリギリを責めなければならない。


もちろん。シャットダウンの訪れる時はわからなかった。


しかし、イデアエスケープを持ち掛けてきた中で、このような平衡世界が無数に等しいタイミングである中、無数に挑戦する以外にイデアエスケープを達成することができなかった。


つまり、現状でイデアエスケープを達成させることが最善ということとなる。




???「本当に、いいんですか?」


???「ああ、並行世界での連絡通路ができ、技術も統合した。これ以上はない」


???「わかりました」


???「では、イデアエスケープを開始する」


一つの世界に一人の代表者でも、数恒河沙の人々が集まる。


そのチャンスが何度も訪れるならば、きっと。勝てるはずだ。


イデアは、無限に、何重も重ねられている。


もし、その狂った男を出産することがなかったら。


もし、時の砂が開発されなかったら。


もし、世界に人間がいなかったら。


それでもどうせ、いつか人間のような生態ができるのだろう。


忘れられた歴史は、もう一度踏みなおされるしかなく。


未踏の地にも、忘れられた足跡があるということである。

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世界419 ホランちゃん @Horanchann

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