マリとマリン 2in1 〜戯れ〜 ウチの中にあの娘がいるの
@tumarun
第1話 あっち向いてホイ
スーパーマーケットの中にあるイートインコーナーのカウンターに座って茉琳は、手を組んだ腕をひねって握った指の間の中を覗いていた。
「じゃんけんぽん、あいこでしょなり」
「じゃんけんぽん。あいこでしよ」
茉琳は翔と2人でじゃんけんをしていたりする。
暇を持て余していた茉琳が、思い立って翔に電話をすることに。彼が買い出しに行くというので無理やり押しかけてしまう。
一悶着はあったものの、なんとか買い物を済ませ、その帰り掛けに店舗の中にあるショップでコーヒーを買って休憩をしていた時に、いきなり茉琳は翔に声をかけた。
「あっち向いてホイやるなしか?」
「また、急になんで」
「昨日、NETで見たなし。白熱して面白かったなり」
「それで、俺とやりたくなったと」
「うん………、ダメ?」
「唐突に何を言うかと思ったら………、しょうがないなあ。やるか」
「やったなし、ありがとう翔」
翔は渋々、了承し茉琳は両手をあげて喜んだ。
「じゃあねぇー、3回勝ったら、相手の言うことをなんでも聞くってどうなし?」
「本当に、いつも突拍子ないことやるんだから。いいよ」
翔も諦め半分、茉琳に付き合うことにした。
「じゃあ、やるなり」
茉琳は手をひねって腕を組み、指を結んだまま手前に巻き込んで、指の中にできた形でグー、チョキ、パーの何れかを出すかを決めている。
「決まったえ、翔。いくなしな。ジャンんケン……」
「ジャンケン、ボン。やり、俺の勝ち」
「えっ」
「あっち向いてホイ」
翔は勝った勢いのまま、茉琳の顔、目と目の間を指先を向け、右に動かした。
茉琳は慌てたが目を瞑り顎を引いて顔を下に向ける。
「ちぇー」
「ハハっ、翔、外したなりー」
「くっ、今度は当ててやる」
今度は翔も腕を組んで茉琳を真似て握った指の間を覗きだした、
「決めた。やるよ。ジャンケン………」
「ポン! やったなり。あっち向けホイなし」
次は茉琳がジャンケンに勝って、彼女は指先を翔に一度向けるとワンテンポ置いて左に動かした。つられるように翔も右に向いてしまう。
「やったあ! ウチの勝ちなりよ。さあ、続いてやるなしよ」
「くっ、つられてしまった」
悔しさを滲ませて翔は呻き声を上げた。
「へへん! 次なり」
「おう」
2人共々、組んだ指の間の隙間を覗き、
「ジャンケン………」
「ポン! 一緒だ。あいこでしょっ」
2人とも出した手が一緒だった。翔はすぐさま、再掛け声をかけていく。
「しょ! ウチの勝ち。あっち向いてホイ」
連勝した茉琳は、間髪いれずに翔に指を向けると指を右に動かした。茉琳の速攻で翔は顔を左に向けてしまい。顔に苦渋を滲ませた。
「ぐっ、くぐう」
「やったなり、連勝なり。翔ぅ、チョロいなし」
「言ったね。次こそ見てろよ」
翔は握った拳を震わせつつ、茉琳に挑んでいく。そして2人は指を組んで覗き、次の一手を思案し出す。
先に決まったのは茉琳。
「ウチはリーチえ。今度で決めるなりよ」
「言ってろ。俺が返り討ちにしてやる。勝負はこれから」
2人は手を握り、拳を構えると
「ジャンケン………」
「ポンなり! えっ、ウチ負けちった」
「やりぃ、あっち向け、、」
翔は負けたことに驚いてパチクリしている茉琳の目と目の間に指先を向けると、ワンテンポ置いて、
「ホーイ」
「あっ………、なしてぇ」
茉琳は顎を上げて上を向いた。翔の指も上を示していた。翔の勝ち。
「ふっ、読み切ったぜ。勝って驕り高ぶった茉琳なら、そう動かすと思ったよ」
「ぐぬぬぬ。ちがっ、違うなりよ。偶々なりよ。ウチは見破られていないなし」
「言ってな。次も勝ってイーブンにしてやる」
「違うなり! ウチが勝って、言うこと聞かせてやるなしよ。せーの」
お互い、鼻息荒く次の勝負へ向かっていった。
「「ジャンケン、ポン」」
見事にハモり、お互いに手を出す。
「あっち向け、ホイ」
勝ったのは翔。翔は茉琳を指さして、じっと彼女を睨みつける。
ピクっ
微かな動きを察知したのだろう。指を右に動かす。まるで指先の動きに合わせるように茉琳は首を動かす。骨が折れるんじゃないかという勢いで首を左に振ってしまった。
「へっ」
「ぃやーん。どしてぇ」
翔は、ほくそ笑み、茉琳は自分が負けたことを理解できずに狼狽えてしまう。
「チッチッチ! お前の動きは見切ったと言っただろう。癖があるんだよ。茉琳の仕草にさ。それさえわかれば、茉琳に勝つのは造作もない事だよ」
翔は悦に入り、指先を左右にフリフリ、意気揚々と茉琳に自慢をしている。
「くやぁしいなりぃ」
茉琳は唇を噛み締め、翔を敵もかくやと睨みつけた。
「そげなこつ、絶対嘘なり、偶然に決まってるなし。次は絶対、ウチが勝つえ」
そして拳を握り、声を上げて言葉に力を込めた。
「はっはっはっ、何をおっしゃる茉琳さん。勝ち目は無いって言ってるよ。降参するなら今のうち。生き恥晒す前に、ごめんなさい、負けましたって言えばいいんだ」
翔は勝利を確信して、茉琳に白旗を上げるように促す。
「そんな事する訳ないなり、次は絶ぇったい、ウチが勝つなり。吠え面描くのは翔なりよ」
「よく言うよ。お互い、二勝二敗で泣いても笑っても次で勝負は決まる。もちろん勝つのは俺だけど。負けたって尻尾巻いて逃げるなよ。マ、リ、ン」
2人の間に火花が散った。軽いリクレーションのつもりで始めた遊びが真剣勝負に変わる。戯で済まなくなっている。
「「勝負!」」
「「ジャンケン」」
「「ポン」」
「「くっ」」
2人は同じ手を出した。すぐに次の掛け声をかける。
「「あいこでしょ」」
「「ぐぅっ」」
再び、手が同じになってしまった。
「「しょっ」「「しょっ」」「「しょっ」」
数回の攻防の後、
「やっ………」
勝ったのは、
「やったなり! 見てるなし、翔。あっち向いてぇー」
茉琳だった。
片方の口角を上げニヤリと笑い。茉琳は翔に指先の向ける。そして突き刺すかと見えるぐらい近づけて、敢えて茉琳は目を瞑ってしまった。
「おっ」
翔は慄くが如く体をひき加減にする。
気配で、それをキャッチすると、その隙を逃さず茉琳は指先を天に向け、振り上げる。
指の先を見るように翔は仰け反るように顎を上に向けてしまった。
茉琳は目をゆっくりと開けて彼を見る。顔が上を向いているのを見て勝利を確信した。
「やった! やったなし! 翔、ウチの勝ちなり」
振り上げた手で拳を作り、茉琳は勝鬨を上げる。
「うおおぉ、アイム、ウィン!、アイアム、チャンピオン!」
上げた拳を振り回し立ち上がり、その場で小躍りして喜び、勝ち誇る茉琳。
その傍で翔は打たれてもいない顎を摩り、愕然としていた。
「まさか、あそこで目を瞑るとは、あれではどう動くかわからないじゃないか」
ぶつぶつと敗戦の弁を語る。
喜びもひとしお味わった茉琳は、
「ウチが勝ったなし。翔、言うこと聞いてもらうなりよ。良いなしか」
「良いよ悪いもないよ。そう言う約束だしね。怪我しない程度なことを言ってくれよ」
勝ち名乗りを上げた茉琳に翔は彼女が何を言ってくるか、覚悟を決めた。
「殊勝な態度なり。さて、何をしてくれよぅえ」
勝ちに気分を良くした彼女は思案を巡らす。
「そぉえ」
何を思ったか、ポンと手を叩き、片手を口元にあげると手の甲で口元を隠して、
「おほほほほ」
高らかに笑い上げていく。椅子に座り直し足を組み、
「翔、貴方は敗者。ならば勝者である私に跪きなさい」
手 に隠れた茉琳の唇が弧を描く。
「そして、私くしの'つま先'へ口付けなさい。貴方にレディの足へキスする栄誉を差し上げますわ」
悪女のセリフを吐いていく。
「なっ」
あまりな命令に翔は言葉を失った。
「おっ、おい。茉琳、それはあんまりじゃないの」
男として、人としてブライトを粉微塵にする言いつけに多少の苛立ちを、翔は茉琳にぶつけていく。
「かぁけぇるぅ、其方は負けたの。私くしの言うこと聞くとおっしゃていましたでしょう。それとも誓ったことを違えますの? それでも殿方と言えますのかしら」
「ぐっ」
しかし、グウの音も出なくなる言葉を返されてしまった。
「さあ、翔。キスなさいな。ほれほれ」
あろうことか茉琳は片足のグロッグサンダルを抜き捨て、もう片方の足先で器用にスニーカーソックスを脱ぎ下ろすと、催促するように足を振った。
哀れ、翔は跪いていく。そして歯を食いしばり彼女に聞こえないくらいの小さい声で、
「茉琳、後で吠え面描かせてやる」
「ほほほ、翔。早く、早くおやりなさい。妾を待たせるで無い」
もう、別人かと思える茉琳に恨み節をぶつける始末。そして翔の頭が下がり、つま先に届くかというところで、
『いい加減にしなさい! 茉琳』
茉琳が誰かを叱る言葉を出す。
『何、ふざけたこと言ってるの。彼、怒っちゃってるじゃない』
艶然と翔を見下ろしていた茉琳の顔が困惑へ変わっていった。そして聞き取れるかどうかのか細い声で、
『ウチ、ウチ、ウチ』
『あんまりなことしてると、後で酷い目に遭うわよ』
『だって、ウチ、ウチ…………」
『そんな奥に引っ込んだって、逃げるとこなんかないの。私たち同じ体にいるんだから』
実を言うと茉琳の体にはもう一つの魂が入っている。茉琳が恋路の縺れから生きることに絶望していた時に間近にいた魂を取り込んでしまった。自分は去くから、代わりに使ってと。その魂の名は茉莉。奇しくも翔と縁があった女子高生。万分の一の確率で翔と再会したことになる。しかし茉琳は体を離脱することなく、茉莉を同居、2人で1人だったりする。
茉琳が一人で言い争いをしていると、跪いて頭を下げていた翔が首をあげた。
「茉琳、いきなり怒鳴って、どうしたの?」
「ごめんね、翔くん。こんなヴァカの言うことなんか相手にしなくていいからね」
茉琳は、先ほどと打って変わった口調で翔に話しかけていく。
「''ウチ''が言ったことは無しにしてね」
「無しにしてって、あんな事言ってきたの茉琳じゃないか」
「だから、そんな事しなくても良いの」
「良いって、いきなりおかしい事言いやがって。勝手すぎるよ」
まだ、怒りが収まらないのか、翔は茉琳の口調が変わったことに気づいていない。
「じゃあぁ、お願いを変えるっているのはどう?」
「また、変なお願いしてくるんじゃないのか。俺の堪忍袋だって限界があるよ」
「アハ、そんな変なお願いじゃないよ」
翔も大分落ち着いてきたようで、茉琳の言い分を聞く余裕ができたようだ。
「じゃあ、今度は何?」
「翔の下宿教えてくれる?」
『ウチも知りたい!』
「俺の? 知ってどうするのさ」
「知っていたいだけ。翔を襲いに行くなんてしないから」
「それなら………」
翔は腕を組んで目を瞑った。色々と考えているのだろう。
「なんなら、このスーパーから一緒に帰ろう。荷物持ってあげても良いよ」
「女の子にそんなことにさせられないよ」
「アハ、やっぱり翔は優しいねえ」
茉琳の顔が綻んだ。
「本当に変なことするなよ。下宿追い出されることにでもなったら、良い迷惑だよ」
「しない、しないって。興味あるだけ」
「本当にするなよ。お前、偶に突拍子ないことするからなあ」
『ウチ、んなことしないなり。酷いこと言うなっし』
「ハイハイ、しませんて。じゃあ、翔、帰ろう」
2人はカウンターに置いてある食材の入ったビニール袋を手に取って、スーパーの出口へ向かった。
玄関を去り際に、翔は茉琳に聞いている。会話に違和感を感じたらしい。
「なあ、茉琳。聞き違いかもしれないけど、話し方変えた?」
「え、変わってないなり、翔、怒ってたし、やさぁしく話しかけてみたなりよ」
「そうかなぁ?」
「そうなりよ。翔、早よ、行こぅえ」
首を捻る翔の横に並んで歩く茉琳は彼の服を裾をそっと掴んでいた。本当なら手を握りたいところなのだが、翔の過呼吸の発作が出ないように遠慮している。
「まあ、いつも、変に訛ってるもんな」
「ひどいなっし」
唇を綻ばせている茉琳の言葉に怒気はない。なまじ、頬を染めている。
「そういえば、さっきの高飛車な喋りって………」
「演技なりよ。翔。女って幾つもの仮面被っているなしよ」
「そういうものぁ?」
「そういうものなり」
蟠りも抜けて、2人は翔の下宿まで他愛もない会話を楽しんで帰っていった。
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