第12話 部下をゲットしました
悔しいけど。本当に悔しいけど、ポッポちゃんは有能だった。変態鳩マスクのくせに……。変態鳩マスクのくせにぃ……。
まあ、自分でも思ってたのよね。今必要なのは信頼できる部下なのだと。1人でやるには限界があるのだ。そんなわけで最も身近な人間の調査を依頼した。
「アリスさんは白ですね。かなり真面目に情報収集してくれてますよ。それよりちょっと気になることがありまして。些事といえば些事なんですがね?」
「うん」
「終業後にえっらい野太い声で筋トレしてまして……。あと、股間にイチモツありました」
「……………うん?」
イチモツ??
「アリスさんは彼女ではなく彼ですね」
「ええええええええええええええええええ」
「それから」
「まだあるの?!」
これ以上があるの?!
「彼女?彼?は元暗殺者ですね。現在誰かの依頼を受けてるかは不明ですが」
「…………おおう………。どこからの情報??」
「家で普通に『暗殺やめたからお給料減っちゃってごめんね』と言ってました」
「そっか〜」
つうか、家の人は知ってるんかい!!
まあね、薄々変だなとは思ってた。司祭様を担いで走ったりしてたし、今にして思えばいつも私の魔法を避けてたのよね。普通のメイドじゃ無理だわ。
そんなわけで、アリスを連れてイフリートの部屋に。ここは遮音性も高く、私とパパ様以外は入れない。密談に最適と言えよう。
「お嬢様」
「何よ」
「アタシ、ついに殺されます?」
「しないわよ!!!」
なんで殺さないといけないの!
「アンタにいくつか質問がある。まあそれと、もしかしたら屋敷にスパイがいるかもと思ったから念のためここにきたのよ」
私はともかくパパ様はそう簡単に死なないはず。そう考えたら屋敷にスパイとか工作員がいるかもしれない。
「あ〜、いますね。今んとこ害はないんで泳がせてますけど。つか、こういうお屋敷には割といるもんですよ?」
「そうなの?!」
「旦那様は的確に見つけて二重スパイさせたりしてます。どうやってんのかまでは知らねっす」
「そうなの?!」
「親馬鹿ですけど、公爵様ってそっち方面の対策はすげえ人ですよ?」
「そ、そうなんだ……」
パパ様って実はすごかったのね……。いやまあ、六大公爵の1人だもんね。
「それで、話って?お説教とかではないですよね?」
「ええ。話というのは……まず、アンタ男よね」
「……………アタシみたいな可愛い男がいると?」
たしかに可愛い。だが、よく見ると少しゴツい。
「スカートとパンツ脱がしてもいいけど?」
「男で〜す。すいません、さすがに勘弁してください調子こいてました!!」
「よろしい」
さすがに脱がす気はなかったので自白してくれてよかった。
「アリスも本名ではないのよね?」
「アリスティードが本名っす。アリスは愛称っすね。昔はアリスちゃ〜んとかからかわれてムカついたっすけど、今は本名みたいに思ってます」
「ふむ。それで、アンタ元暗殺者なのよね」
「……………公爵様が話したんすか?もしかせんでもやっぱクビ?!え、契約は?!自分ちゃんと真面目に諜報活動してるっすよ?!報告書はまだですけど、ちゃんとまとめてます!マジでクビだけは勘弁してください!!母ちゃんの薬代稼ぐにはここで働けないとまた暗殺稼業に戻んないと……いや、それも無理か。とにかくなんでもします!クビだけはお許しを!!」
いや、クビとか言ってないが?ガチで地面に額をこすりつけて懇願されてしまった。
「暗殺者を辞めた理由は?」
「…………………公爵様の暗殺に失敗して、スカウトされたっす……」
「おう……?」
私の誘拐よりやばいじゃないか。なんでパパ様は暗殺者を私のメイドにしたんだ……?
「あと、母ちゃんにバレて大泣きされて母ちゃんも死刑台に上がるとか言い出して………弟妹を路頭に迷わせる気かって言ってなんとか思いとどまってもらいました……でも、もう次はないんすよ……!」
「お、おおう………」
修羅場過ぎる。クビにして暗殺者に戻ったのがバレたら後味悪すぎる結果待ったナシだな。
「だからクビだけは許してください!」
「いや、そのつもりはないけど……情報屋とかのツテはない?」
「情報屋っすか?まあ、何人かは知ってますけど」
クビではないと聞いてあからさまにホッとした様子だ。そして先ほどから口調が男らしい。こちらが素なのだろう。
「私と繋ぐことはできそう?」
「ええ……お嬢様子供だから絶対足元見られるっすよ」
「そこは解決策がある」
そもそも私が直接行かなくてもいいのだ。今は信頼できる代理人がいるからね。
「1人だけ金さえ払えば信頼できるやつがいるっす」
「わかった。近日中に繋いでちょうだい」
「了解っす。あと、確認していいっすか?お嬢様は何をするつもりなんすか?まあ、自分が信用ならねぇから言いたくないならそれはそれでいいっすけど……護衛としては何をする気か知っておけば対策もしやすいっす」
「世界を救うつもりですけど?」
「…………は?」
「私の記憶は未来の記憶だったの。このままだと私は死に、世界は戦乱に巻き込まれる。それを回避したい。信じるも信じないも、アンタの自由よ」
「あ、ハイ……」
まあ、そうそう信じられる話ではないわな。全部を話したところで理解できないから話せるのはこのぐらいだし。
「私からも質問よ。何故リスクを冒してまで黒の教団に私を連れて行ったの?アンタが自分の立場の危うさを理解してないとは思えない」
「ああ、闇の使徒の力なら、いざって時お嬢様が逃げやすいじゃないっすか。お嬢様は強いけど敵が多すぎるから、逃げ隠れする能力をつけてほしかったんす。確かにお嬢様は乱暴で横暴だけど」
「おい」
「自分は、身の程知らずにもお嬢様を馬鹿にした奴が1番悪いと思ってるっす。髪色がピンクでも、お嬢様は旦那様に負けないぐらい魔力が高かった。自分、種族柄そういうのがなんとなくわかるんす。それに、公爵様には見逃してもらったってあまりにもでっけえ借りがあるんで、自分なりにお嬢様を守る最善を尽くすつもりっす」
「なるほどね」
筋は通ってる。
「あと、教団の幹部からのご指名だったっすからね。自分が断ったら別の人間に依頼が行く。自分以外の誰かだった場合、抵抗したお嬢様に乱暴するかもしれないじゃないっすか。かといって信頼のない自分じゃ説得できる気がしなくて誘拐したっす。まあ、それをネタに脅されたのは予想外っすけど……公爵様に比べたらアフターフォローまで考えてくれたお嬢様はマジ優しいっすね」
「どういうこと?」
「家族を人質にされてるっす。暗殺者を無罪放免にするわけないっすよ……」
「なるほどね。よし、決めたわ。アンタの家族をここに住ませるわよ」
「はあ?」
「この場につれてきた時点でアンタに選択肢なんてないの。私のために働きなさい、アリスティード」
「…………はい!!」
何故かアリスティードは強制されているのに嬉しそうだった。変なやつ〜。
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拝啓、悲劇的で素晴らしいゲームのシナリオライター様。私が平凡で幸せな物語に改悪してみせます。 明。 @mei0akira
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