第6話 破壊の呪法

 だが、強烈な張り手が顔面に直撃し、俺は近くの林に突っ込んだ。


「剣を失くした程度で、俺が狼狽えるとでも思ったか?」


 まずい。全身に呪力を纏っていたというのに、痺れて動けない。声も出せない俺に向かって、ライアンはずんずんと進み出てくる。


「異端に後れを取るほど、腕は鈍っていない」


 ライアンは魔力を纏った拳を振り上げ、俺の頭を砕かんとする。聖騎士は異端と遭遇した際、その場で斬り捨てることを許されている。この行為は何ら問題ないわけだ。


 まずい。何か手を考えろ。ラウレイオーンの魂の一部から、何か使えそうな情報を引き出さねば。


「【ダムナティオ】」


 記憶を手繰った俺の口をついて出たのは、そんな呪文だった。


 邪気の塊が円状に湧き上がり、炸裂する。しかし爆風は吹き荒れない。ただ、林の木々は枯れ、地面にはクレーターが刻まれた。人間の悲鳴を凝縮したかのような、嫌な音とともに、破壊の呪法は収束した。


 さすがのライアンも防ぐので手一杯だったようだ。魔力を纏った腕をクロスさせ防いでいだが、甲冑は跡形もなく消し飛んでいる。


「聖別された鎧を消し飛ばすとは。貴様、やはり異端の呪法使いか?」


「そんなことはどうでもいいでしょう。エラを見逃してください」


「教会の威信に懸けて、そんな真似はできない!」


 強情なやつだ。別の呪法を使うか。


「【リクタム・メモリース】」


 俺は記憶の一部を封じる呪法を使った。ラウレイオーンの魂を取り込んだせいか、呪法の知識と呪力が流れ込んでくる。これは使い勝手が良いな。


「お前のここ一年の記憶を、俺のアイテムボックスに封じさせてもらった。もうエラたちには手を出すな」


 俺のアイテムボックスは、有形無形を問わず収納できるのが便利だな。もちろん、俺のだけ特別製だなんて知らなかったので、今までは普通に道具入れとして使っていたのだが。


「俺は何をしていたんだ……?」


「ライアンどの。あなたは、先程村を襲ったモンスターを討伐してくださいました。服がボロボロです。近くの宿屋に案内しますよ」


 俺はそんなデタラメを言って誤魔化し、記憶を失ったライアンをエラたちから遠ざけた。

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俺のアイテムボックスが呪いの蔵だった件~魔力なし冒険者は古代の呪法で無双する~ 川崎俊介 @viceminister

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