第5話 揺らぐ信仰

【私利私欲のために身売りをするような商人であれば、まだ楽だったな。レイドよ。最悪、シャルロッテとやらが代わりに行くか、金品でも渡せば助かっただろう。富や力、欲のために動く人間は御しやすい。だが、四大騎士ともなると話は別だ。神や信仰のために戦う人間こそが、最も厄介なのだ】


 ラウレイオーンの言う通りだ。話が通じる相手とは思えない。自爆覚悟で行くしかない。


「あの、そこの聖騎士様。いくらなんでも横暴です。やめて頂けませんか?」


 俺は思わず進み出て、そう啖呵を切っていた。ヤバい。死んだな。


「何だ貴様は! 神聖なる大聖女様の後継を保護するのに、異議があるとでも言うのか!」


「そうです! 大聖女様の後継を選ぶなら、希望者から募るべきだ。悪しき因習に則って幼子を誘拐するなど、人の所業とは思えない!」


 俺は言い過ぎなくらいに教会を批判していた。


「そうか、貴様。見たことがあると思えば、リサ・アジール団長どのの弟か。姉の威光を借りようとしても無駄だぞ。あのお方は家族であろうと、異端には容赦しない」


 しまった。俺の姉の正体に気づかれたか。また姉さんに迷惑をかける。だが仕方がない。おかしいものはおかしいと言うしかないのだ。


「もう一度言います。やめてください。もう、彼女たちに近づかないでください」


「教会の伝統に疑義を差し挟む異端は、ここで成敗してやる!」


 ライアンは背中に携えた剛剣を引き抜き、俺に切っ先を向けた。


【なぁ、レイドよ。お前は幼馴染を守るためなら、異端となる覚悟はできているか?】


 唐突にラウレイオーンが問う。


「今はそんなこと言ってる場合じゃ……」


【いいから答えろ】


「異端くらい、なってやりますよ、魔人どの。幼馴染の家族を守れるのなら、安い犠牲だ。どのみち、腐った教会のようですし」


【よく言った。その覚悟に敬意を表し、私の魂の一部をやろう】


「そんなことが可能なのですか?」


【不思議なものでな。アイテムボックスに収納された時点で、私の魂は出し入れ可能になってしまったのだよ。例えば、薬草の束から一本抜いてその効能を得るようにな。私の魂も薬だと思って摂取するといい】


 なんだか気味が悪いが、やるしかない。俺は提案を受け入れた。


 直後、ライアンの剣が迫るが、刀身は消し飛んでいた。これが魔人の呪力か。


【下手に信仰心が残っていると副作用が出るのでな。念の為さっきの質問をさせてもらった】


「ありがとうございます。信仰心なら、もう捨てる覚悟ができました!」


 俺は短剣を構え、ライアンに向かって突進した。

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