第4話 次期大聖女
拠点にしている冒険者ギルドに戻ると、見知った顔があった。金髪に栗色の瞳。俺より一回り小さいその背格好の少女は、幼馴染のシャルロッテだ。
「シャルロッテか。久しぶり」
「レイド! この近くの地下ダンジョンが崩落したって聞いたんだけど、無事だったのね!」
「あぁ、たまたま外に出たタイミングで崩落したんでね。助かったよ」
魔人や呪力のことは伏せ、俺はそう答えた。
「良かったぁ、私、レイドが遂に死んじゃうんじゃないかと思って……いつも死にそうな感じだったから」
俺、そんなふうに見えていたのか? やはり覇気の無さが滲み出ていたのだろう。
「そう簡単に死にはしないよ。なんだかんだ冒険者として生き残ってきたんだからね。それより顔色が悪いようだけど、どうかしたのか?」
血色が悪いだけでなく、シャルロッテの目元にはクマができている。何かあったのか?
「じ、実は、うちのエラが連れて行かれそうなの! もうレイドしか頼れる人がいなくて!」
エラと言ったら、最近産まれたばかりのシャルロッテの妹だ。なぜそんな赤子を誘拐しようとする輩がいるんだ?
「誰がそんなことを?」
「ライアン・アルファードっていう聖騎士様が!」
聖騎士がそんなことをするのか。しかもライアンといえば、【剛剣のライアン】の異名を取る四大騎士の一人だ。四大騎士は教会のトップ、【巌の大聖女】直属の近衛騎士。私利私欲のために動くとは思えない。
俺が妙に思い駆けつけると、まさしく問答の最中であった。
「この子は生まれてまだ半年です! なぜ連れて行こうとなさるのですか!」
シャルロッテの母親が、甲冑を纏った騎士に縋りつき泣いていた。
「生まれて半年だからだ。この娘はちょうど半年前、つまり大聖女様の薨去と同日に生まれた。つまり、大聖女ウルスラ様の生まれ変わりなのだ。ウルスラ様の後継者として、我々教会が丁重に育てる。お前たちのような下賤の民に預けてはおけん!」
「そんな、同日に生まれた赤子なんて、他にもいるでしょう! なぜうちの子に限ってこんなことを!」
大聖女様の死と同日に生まれた子どもを後継者に据えるなんて慣習があったのか。
「魔人どの、こんなしきたり、聞いたことはありますか?」
【民衆には明かされていないが、歴代の大聖女は皆そうして選ばれてきた。千年前からな】
「しかし、ただの平民の子に大聖女たり得る魔力があるとは思えません」
【魂を浄化し、大聖女に相応しい人格に塗り替えるのだ。魔力適性が高まるよう処置も施される。赤子であればまともな身体も人格も育っていないので、それも容易だ。どうだ? 教会の闇を知って信心が薄れたか?】
信仰がどうのというより、驚くばかりだ。俺はこの世界について、こんなにも無知であったのか。
「お願いします! 大事な私の妹なんです! 連れて行かないでください!」
シャルロッテもまたライアンに縋りつき、懇願する。
「ええい、邪魔だ! 教会への反逆罪に問われたくなければ、今すぐ離れろ!」
ライアンはシャルロッテたち二人を蹴飛ばし、赤子を取り上げようとする。シャルロッテは早くに父を亡くしているので、もう抵抗できる人はいない。
それに、俺の幼馴染を足蹴にされて黙っているわけにはいかない。
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