第5話 地に足をつけよう
断り方がわからない。
さんざんお金を無心した私は親にも相談できなかった。だから再び健太に泣きついた。
『――投資できない理由を伝えるな、逆に投資できる条件を相手に伝えろ』
健太のアドバイスは勧誘されている投資話をそのまま受け入れるのでなく、私の方から投資できる条件を出す事だという。
他の女の子達の配当が滞ってる事実を告げても、そもそも同じ金融商品かどうかわからない。どんなに投資できない理由を伝えても、隆久さんは100パーセント模範解答を用意しているはずだという。
だから今回の高配当を謳う商品ならば、『過去、年間平均5パーセント以上のリターンをあげているならば検討する』というような具体的で相当高いハードルを設定して相手に圧をかけてみるのが良いそうだ。
私の設定した条件が厳しくて、隆久さんの方から勧誘を諦めてくれるというのが健太の予想だ。そして絶対に直接会わずに電話で伝えろ、という。
結果、隆久さんは私を勧誘することを諦めてくれた。
*
大学のキャンパスで健太と偶然出会ったとき、改めてお礼を言った。そうだ、健太も2学年下だけど経済学部の1年生だった。
「よかったな、もう変な男に引っかかるなよ? あれは詐欺師」
女の子が出資できる限度額を正確に予測して投資話を持ち掛けてくるし、こちらに好意に抱かせ断りにくい状況を上手に作ってくる詐欺師だと思う。これが色恋営業というやつだろうか。
金融商品自体、学生の私達にはイマイチ仕組みがわからなかった。もしかしたら隆久さんが逮捕される日が来るかもしれない。
「ありがとう、持つべきものは幼馴染だね。頼りになったよ」
「ちゃんと地に足つけて行動しろよな」
隆久さんは格好良くて大人の男性でまさに理想のタイプだったんだけど、とんでもない人だった。現実をちゃんと見つめよう。
そう思った時、なぜか健太の顔が浮かんだ。
――もう、つま先立ちの恋はやめよう。
了
つま先立ちの恋には無理がある! 山野小雪 @touri2005
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