三顧の礼

風馬

第1話

今朝はいやに寒い目覚めだった。

ふと、寝床をみると・・・。

私の寝床とはいつもと違っていた。

夢なのだろうか・・・、しかし夢でも現実でも否が応でも話は進む。


私は、懐かしい暖かさの残る寝床から戸外へと向かった。

外は一段と寒かった。身を切るような寒さだ。

ここはいったいどこなのだろう。この家から左には坂道が続いていた。

その坂道を登ってみることにした。高い所へ登れば何かわかるかもしれないと思った。

その途中で小川をみつけたので、水鏡に自分の姿を写してみた。

やや、いつのまにこんなにりっぱな顎髭が・・・。

この姿はどうみても自分ではない、ではいったい誰なのだ。

あまりの驚きに声さえもでない。

そのとき、水鏡に青年の姿が写った。

「お困りのようですね。」と、後ろから声がした。

私は振り向き、彼にことの経緯を説明した。彼には全てが解っているかのようだった。

彼は親切にも私を自宅に招き入れてくれた。

今後はこの家に住みなさいとまで言ってくれた。

なんて、親切な人なんだ。

彼はその後、私に巻物三巻を渡してくれた。

一巻目の巻物が終わったら錦の袋を開けるように言われた。

彼はその後足早に外出をした。


私は、それから数日間一心不乱に勉強した。

一巻目の巻物の勉強を終えたが、その間彼は戻って来なかった。

彼は一体何処へ行ってしまったのだろう。


そういえば1巻目の巻物が終わったら、錦の袋を開けるんだったな。

錦の袋には紙切れが一枚入っていた。

紙切れには、一里離れた家に行くように書かれてあった。

私はその紙切れに諭されるようにその家へと向かった。

その家には老人がすんでいた。

老人からは、今日はもう遅いからと休むように言われた。

言われた通りゆっくり休むことにしたが、若いせいかそう簡単には寝付けなかった。

いつになったら、元の寝床へ帰れるのだろう。そんなことを考えているうちに朝になった。


私は朝になると朝飯も早々に切り上げ、老人に彼からここへ来るようにしむけられたことを伝えた。

老人は頷きながら、申し訳なさそうに答えた。


「風が吹いたらもう一度来てくれぬか。」


しかし、私には意味がわからない。何度聞いても老人はもう耳を傾けてくれなかった。

私は諦め、家に帰ることにした。家へ帰ると、下僕が客人が有ったことを教えてくれた。

どんな客人か聞いてみると何やら変な三人組のおじさん達がやってきたと言った。

その客人は「また来てやるぞ。」と捨て台詞を吐いて帰っていったらしい。

私としては、そんなおじさん達には興味がないので来て欲しくないのだが・・・。

私は何もする事がなくなったので、暇つぶしに二巻目と三巻目の勉強を始めることにした。


ある日、下僕が私にそっと耳打ちをしてくれた。

例の三人組がまた現れたらしい。私が垣根からそっと目を凝らしてみると・・・

一人は妙に耳のでかいおやじで、もう一人は顎にマスクをしたおやじ、そしてもう一人は目玉おやじ。

確かに変なおやじ三人だ。暇つぶしに少し観察してみることにした。

親分はどうやら、耳おやじらしかった。目玉おやじはおしゃべりで気が短そうだ。

マスクおやじは大人しい。しかし、いったいこいつらは何者なんだ。


目玉おやじはさっきから、盛んに「兄者、兄者」と叫んでいる。

まさか、このおやじ三人は兄弟?そんな訳は無い。誰がどこをどうみても他人だ。

しかし、このおやじ三人はなかなか帰らない。

私がいるのを気取られるとやっかいだ。

いや、もうもしかしたら気づいているかもしれない。

ここまでくると、後は我慢比べだ。私は奥に入り昼寝をすることにした。

案の定、昼寝から目が覚めると三人は帰っていた。

私はほくそ笑んだが、いやな予感が私の頭を過ぎった。

まさか、あの三人・・・、また来るのでは。


それから数ヶ月後、すっかり勉強を終えてしまった私は、風が吹くのを待つ毎日だった。 

そんな折りにあの三人組はやってきた。

また、居留守を使ってやろうかとも思ったが、私はそんなに気の長い方ではなかった。

とにかく用件をすませて、あの三人には帰ってもらうつもりだ。

しかし彼らは一体、何の用事でここに来たんだろう。

下僕が、耳おやじを客間へ案内した。

私は、耳おやじに何の用事でここへ来たか訊ねてみた。


耳おやじ:「私は、これから一体どうしたらいいんでしょうか?」

私:「・・・」

耳おやじ:「民は戦に疲れ、そんな民は私を頼りにしているのですが、私にはよりどころがありません。」

耳おやじ:「せめて、これからの方針だけでも教えて下さい。」

私は、今までに勉強してきたことを掻い摘んで説明した。耳おやじは大きく頷きながら話を聞いていた。

話を終えたので帰るように勧めると、耳おやじは泣きながら私に「先生!」と泣き叫ぶ。

どうやら、この耳おやじ相当性格が悪いらしい。

これじゃぁ、おもちゃを欲しがるだだっ子だ。


耳おやじ:「先生!私と一緒に来て下さい。」 

私:「・・・」 

さっさと帰れと、言おうとした瞬間、入り口から強い視線を感じた。

凄い形相で睨んでいるおやじ二人。泣くおやじ一人。これでは否が応でもいかねばなるまい。


行かなければきっと、風は吹いてはくれないだろう・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三顧の礼 風馬 @pervect0731

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画