第42話 ガラハッドの結婚


 オレは久々に魔王子の執務室で机に向かっていた。

 帝国の皇帝から書簡が届いたのだ。


 海の向こうにあるという大陸調査の為、魔道船を建造してほしいと打診したところ、帝国は大変乗り気になった。魔道船を建造するだけでなく、帝国からも調査隊を選抜するから共同で調査を行わないかと返事が返ってきた。こちらとしても願ったりかなったりなので、是非やりましょうとこうして書簡をしたためているわけだ。


 謎に包まれた大陸の調査はもちろん重要だが、何より帝国との初めての共同事業になる。是非とも成功させたいところだ。


 書き上げた書簡に封をして城の者に渡すと、オレは大きく伸びをした。


 魔獣討伐から帰ってきて休む間もなく城の仕事に追われたので、ここのところ少しお疲れ気味だ。

 仮眠を取ろうと、執務室の隅にあるベッドで横になった。

 女がいた。


「うわああああああああ」


 オレは悲鳴を上げて飛び起きた。


「きゃああああああああ」


 女も悲鳴を上げて飛び起きた。

 女はシーツで体を隠してベッドの隅に移動した。

 黒縁眼鏡をかけたセイレーンの女だ。ブランシェの側近ルージュだった。


「いけませんわ。いけませんわ。いくら性獣様とはいえ、三人もお妃様がありながら、私をも手にかけようなどと」


「誰が性獣様だ!何でお前がオレのベッドにいるんだよ!」


「お疲れだろうとお茶をお持ちしたのですが、ベッドがあったのでついふらふらっと」


「ふらふらっとじゃない!とっとと出てけ!」


 オレはルージュを執務室から叩き出した。



 その後もルージュはことあるごとにオレをベッドに誘い込もうとした。


「いけませんわ。いけませんわ」


「おい、こら。オレをベッドに連れていこうとするな。おい、こら、やめろ!こんなところで服を脱ごうとするんじゃない!」


 困ったオレは妃達に相談した。


「うーん。ルージュは仕事ばかりしていて婚期を逃してしまってな。最近、焦っているんだ。とりあえず、手近なところでレクサスを狙ったのだろう」


 黙って話を聞いていたブランシェが口を開いた。


「手近って……。一応、オレ、魔王子なんだけど……」


「最近、誰かさんのせいで妃が一人故障者リスト入りしましたでしょ。ローテーションに空きができたので、その隙を狙ったのかもしれませんわね」


 ノアールが言った。

 おめでたい話なんだから、故障者リストとか言わないでほしい……。


「誰かいい人はいませんかしら?」


「グリイはダメなの?」


 オレはブランシェに尋ねた。


 グリイとはブランシェの側近の一人である。灰色の羽根を持つセイレーンの男だ。

 魔族は男に比べて女の数が多いという特性があるが、セイレーンもその例外ではない。男というだけで貴重な上に、ブランシェの側近ともなれば、グリイはエリート中のエリートである。これ以上の相手を見つけるのは難しいだろう。


「グリイは三人の子持ちだぞ。嫁も二人いる。癖のある者達でな。それ以上嫁を増やすとストレスでグリイが倒れてしまう」


「えっ、グリイって結婚してたの!?そんな風に見えないけど。自由人ぽいし」


 オレは驚いた。


「セイレーンの男は十三才になる前に完売する」


「なんかセイレーンも大変そうだね。……それじゃ、ガラハッドはどう?お似合いだと思うけど」


 少し考えて、オレは言った。


「ガラハッドならわたしも賛成だが……どうだろうな。彼は結婚とか恋愛なんかに興味がなさそうだぞ」


 ブランシェが難しい顔をした。


「わたくしも聞いてみたことがあるのですけれど、『自分はまだまだ未熟者です。結婚など到底考えられません』と言うばかりでしたわ」


 ノアールも同調した。


「いい人なんだけど、融通がきかないよね」


 オレは腕組みをした。


「確かにそうなのですけれど……」


 ノアールはほんの少し考える仕草を見せたが、すぐに顔を上げてパンと手を叩いた。


「魔王子妃の騎士がいい年した独身男性というのも外聞がよくないですわ。いい機会ですので、くっつけてしまいましょう」


「でも、どうやってガラハッドにうんと言わせるの?」


 オレはノアールに尋ねた。


「これを使いますわ」


 ノアールは棚から透明な液体の入った小瓶を取ってきて、テーブルの上に置いた。


 また、これか……。いい思い出がない……。


「みんな忙しいのですから、こんなことに時間をかけてはいられませんわ」


 ノアールはハンドベルを鳴らして侍女を呼んだ。



 夜になり、ルージュはブランシェに呼び出された。

 少しばかり性急に事を進めすぎたかしらと反省しながらルージュが部屋に入ると、ソファーにガラハッドが座っていた。


「あれっ、ガラハッドさんじゃないですか。あなたも呼び出されたんですか?」


 ルージュはガラハッドに声をかけたが、ガラハッドが返事を返すことはなかった。

 ガラハッドの様子がおかしい。苦しそうに息を荒くして、両手で自分の体を抱きしめている。


 ルージュはテーブルに置かれた水の入ったコップに目を止めた。

 ガラハッドが飲んだのであろう。水は半分ほどの量に減っていた。

 ルージュはコップを手に取って、水を一口舐めてみた。


「こ、これは、ノアール様謹製の媚薬!?」


 ルージュはおそるおそるガラハッドに目を向けた。

 ガラハッドは俯いて歯を食いしばり、体をガタガタさせていた。何かを懸命に抑え込もうとしているようだった。


「ま、まさか、お妃様たちの仕業……」


 パリンと何かが壊れる音がした。

 ガラハッドがゆっくりと顔を上げた。

 そして、その血走った目をルージュに向けた。


「っ!?」


 ルージュは急いでドアに向かって走った。

 そして、ガチャリと鍵をかけた。


「ブランシェ様、ノアール様、ありがとうございます!」


 ルージュは二人の妃に感謝の祈りを捧げた。


 ルージュはガラハッドの手を取ると、「いけませんわ。いけませんわ」と言いながら、部屋の奥にあるベッドに引っ張っていった。


 翌日、つやつやのルージュに、やつれた感じのガラハッドがオレ達のところに挨拶に来た。

 二人は結婚した。

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雷獣の子~奴隷のオレが魔王討伐に向かったら魔王子であることが判明した。婚約者達と帝国を倒します~ 津村マウフ @sumio1234

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