人外従者

しゃしゃけ

全てのはじまり

バンッ


唐突に狭い白い廊下に銃声が響くと共に暴力を振るっていた小太りの男の耳につんざく程の銃声が聞こえ胸を銃弾が撃ち抜く。男が理解する前にもう一度銃弾が足を撃ち抜く。


撃たれた場所からは血が噴き出し、顔に血が付く。男はなすすべなく倒れる。白い床に血が広がっていく。それを見る二人の子供。


ちゃんと手入れすれば綺麗な黒髪に丸い目、赤い瞳のドラゴン族の子供と長い白い髪に糸目の蛇族の子供。


牢越しに倒れた男を見ている。心が死んでいるのか、驚きで固まってしまっているのか光の無い瞳で、少し口を開けてただ眺めている。


そんな二人を放っておけなくて、男のポケットを探り鍵を取り出す。いくつもある鍵の中から


『1124.1125』


と書かれた鍵を鍵穴に挿し、回す。


ガチャと音をたてて解錠される。扉に手をかけ、ぎぃぃ…と音を立てながら手前に引く。


その音に導かれるように首に『1125』と刻まれたドラゴン族の子供が此方を見る。足を怪我しているのか動こうとはしない。


私は牢の中に入り、二人を抱え上げる。『1124』と刻まれた蛇族の子供は廊下の奥から足音が聞こえることがわかりそれを伝える。


「奥…廊下の奥から…複数の足音…逃げるが吉でしょう…」


ボソボソとしたかすれた声。水すら与えられずパサパサのパンを食べ、そのうえ叫ばされる。喉が傷つき話す事も辛いだろうに私に情報を伝えてくれた。


この情報を駄目にするわけにはいかない。私は自分自身に異能力を使う。


私の異能力は〔身体能力倍増〕その名通り、身体能力を上げることが出来る。


「身体能力、三倍…」


廊下に出て出口の方を向き足に力を入れ、踏みしめる。メリメリ…バキィィッと音をたてて地面が割れる。その音に歩く音が走る音に変わるが問題は無い。


「何者だ!!」


その声に一度動きを止めて名を名乗る。


「私はただの復讐屋よ」


誰も追いつけない速度で走り抜ける。壁を壊すため、さらに異能力を使う。


「身体能力、十倍…」


足に力を込め、壁を蹴り上げる。少ししてから壁が大きな音をたてて壊れる。


砂ぼこりが舞い、その中を駆けて施設、古岸牢獄アトランティスから離れる。施設の場所が森の中だったのがいい方向に進む。


隠しておいた車の後部座席に『1124』と『1125』を押し込み、車を出発させる。しばらくして『1125』が話しかけてくる。


「どうして、自分の身を危機に晒してまで私達を助けたのですか…?」


当然の質問だ。唐突に現れ『この子達貰うわ』そんな言葉を吐いたかと思えば男を殺して、自分達を連れ去ったのだから。私は少し時間をおいてからてから応える。


「…子供を助けるのに、理由って必要かしら」


『1124』が少し悲しそうに呟く。


「俺達…人間じゃないんだよ…?人間の道具に過ぎないのに…」


私はこんな事を考えるまでに苦しめられたこの子達が不憫ふびんで仕方が無くなると同時に古岸牢獄アトランティスを作った国に怒りを覚えた。


「人間だろうと人外だろうと、子供は子供…皆平等に幸せであるべきよ…」


バックミラー越しに見えたその表情は驚きであった。直ぐに目を逸らし顔を伏せる。


「変な人間…」


まだまだ家まで距離はある。家に着くまでに少しでも仲良くなっておきたい。私はこの子達を始めに、国中の囚われた人外を救いたいのだから。


「貴方達、名前はある?」

「無ければ私が付けていいかしら?」


少しの間をおいて、二人が同時に答える。


「俺、囚われる前の記憶ないから、勝手に付ければ…?」

「囚われる前の記憶無いので好きにしてください」


〝記憶が無い〟いや消されたのだろう。何とも酷いのだろうか。小さい子供を苦しめて、国は何を考えているのだろうか。湧き上がってくる怒りを抑えながら名を考える。


残念ながら私には名前を考えるセンスが無く、安直な名前になってしまう。


「じゃあ…『1124』は黒、『1125』は白…なんてどうかしら…?」

「私名前を考えるのが得意じゃなくて、嫌なら嫌と言ってくれれば…」


白と黒と命名された二人は特に嫌とも言わずに受け入れる。気に入ってくれていれば良いのだけれど。


少しして、子供達がお互いの名を呼び合う。


「少し腹黒い黒にはお似合いな名前だね」

「白こそ世間を何も知らない純粋な貴方にはお似合いですね」


クスクスと笑いながら呼び合うその姿はとても愛おしいものだ。初めて見る笑顔に私も釣られて笑顔になってしまう。


「気に入ってもらえたなら良かったわ」


話しかければ体をビクッとさせてからこちらを見て答える。


「助けてくれたのはありがたいけど信用してないから」


これは、仲良くなるのに時間がかかるな…なんて考えているうちに家に着く。私の家は森の奥にあるため、今の状況的に有利だろう。


車を降り、二人も降りて家に入るよう伝えれば少し周りを警戒しながらも従って家の中に入る。白は足を怪我しているため、私が家の中まで運ぶ。


まずは怪我の治療をと思い椅子に座らせ足に触れれば「触らないで!」と怒られてしまう。足から手を離せば「あ…」と小さく声をあげて、謝罪をする。


「ごめんなさい…また、酷い事されるんじゃないかと…」



ジジッ…



子供がこれほどまで怯えるなんて、どれほど酷い事をされたのだろうか。私は優しくお願いをする。


「私は、酷い事しないと約束するわ…だから、怪我の治療をさせてくれないかしら…?」


相変わらず私には無愛想だが「ん…」と足を出してくれる。足には打撲痕と切り傷がある。これの痛みのせいで歩き辛いのだろう。


切り傷を水で湿らせた水で汚れを拭き取る。痛いのか少し足が震えている。次に消毒で傷口を消毒する。


「いたっ…」


痛いのは当然だ。かなり深くまで切りつけられている。傷口に薬を塗り、包帯を巻く。


「傷口なんて、ほっとけば治るのに…」


治療が終わったと同時に風呂に入るよう言っていた黒が上がった事を告げに来る。用意しておいた服のサイズはピッタリでよく似合っている。


「服まで用意してくれてありがとうございます」

「久しぶりですよ。温かいお風呂なんて」


表情はさほど変わらないが悲しい表情なのがよくわかる。次は怪我人の白と私でお風呂に入ろうと話しかければ「うん」と承諾してくれる。少しは信用してくれたのだろうか。


風呂場で髪を洗ってあげたり、傷口を避けて体を洗ってあげた。お詫びにと背中を流してくれて私は嬉しくなった。湯に浸かることは無く風呂をあがる。白の髪を乾かしていると黒が顔を覗かせる。



ジジッ…



「私の髪も、乾かしてくれないですか…?」


その言葉が嬉しくて仕方がなかった。信用し始めてくれたのだろう。笑顔で了承し髪を乾かす。黒は少し嬉しそうにしている。髪を乾かしおわり、食事をしようとすれば用意したご飯に目をきらきらと輝かせている。


「美味しそう…」

「こんなに豪華はご飯は久しぶりですね」


豪華と言うがただ私はカラーを作っただけなのだ。少しもやもやしながらも食事を取る。一皿で満足の私の前には何度もおかわりを欲しがる食いしん坊な子供が二人。


「満足するまで食べていいのよ」


食事が終わり、時間も時間なので寝る事にしようと寝室へ連れていけば、床で寝ようとする。


「俺らはここで平気」



ジジッ…



子供を床で寝かせるわけにはいかず無理矢理布団に入れる。そうすると笑顔になり二人で話す。


「温かいね!それにふかふかだよ!」

「そうですね。これなら直ぐに寝れそうですね」


二人の言葉一つ一つが私の胸をの締め付ける。


私は絶対にこの子達を幸せにする事を今ここで誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人外従者 しゃしゃけ @syasyake

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ