【お題で執筆!! 短編創作フェス③】忍び足

蒼河颯人

忍び足

 あたしは黒猫のディアナ。

 とある骨董屋さんのお家に住んでいる飼い猫なの。

 その店主の柳都が、あたしの飼い主。

 この名前は、彼がつけてくれたの。

 彼の銀縁眼鏡をかけた細面は、色白でどこか優雅。

 目鼻立ちが整っていてさわやかな感じ。

 少し癖のある黒髪は襟足まで長さがあって、艶々している。

 丁寧な物腰と対応で、訪れるお客さん達からも彼は大変人気があるの。あたしはそれを裏からこっそり見ているんだけど、ちょっと妬いちゃう時もあるわ。

 そんな彼は、あたしの自慢のご主人様なの。



 お外はぴゅーぴゅーと風が吹いていて、窓がカタカタ音を立てている。お部屋の中は、ヒーターと言う暖房器具がつけてあるけど、今日は格別に寒い気がする。もう少しこの器具の傍にいこうかな。あたしは抜き足差し足、移動することにしたの。


 え? あたしが何をしているのかって?

 しーっ! 駄目よ。そこで声を出しちゃ。

 柳都が起きちゃうじゃないの。

 あのね、彼、今お昼寝をしているの。

 そこに見えるでしょう?

 あの揺り椅子の上でね。

 昨日のお仕事も結構大変だったみたいだから。

 ほら、気持ちよさそうな寝顔をしているわ!

 起こしちゃ可哀想でしょ?

 こうやってかかとをつけないで、つま先だけで歩いた方が、音が立ちにくいでしょ?

 あたし、これでも、ちょっとは気を遣っているんだから!

 

「……ディアナ? 一体誰と話しているんですか?」

 

 あらやだ! 起こしちゃったのかしら? やぁねぇもう。

 

「……こちらにおいで」

 

 どうやら、あたし、柳都に呼ばれちゃったみたい。ご主人様に呼ばれちゃったのなら、しょうがないわね。でも、心の中は凄く嬉しかったりして。


「外は寒いから、中にお入りなさい」

 

 柳都はあたしを膝掛けの中に入れてくれたの。

 しかも胸元ー!

 あたしの特等席ー!

 う〜んほっかほかであったか〜い……。

 柳都の優しい匂いもするぅ……。

 あたしは思わず、柳都の頬に自分の小さな頬をすりすりしてしまった。すると、彼ったら、膝掛けごと優しく抱き締めてくれたの。


 「こんなに冷たくなって……ほら。しっかりあたたまりなさい。風邪をひいたら大変ですから」


 あーん。幸せぇ~。

 大きな手と、ふかふかした膝掛けに包まれて、あたし、ふにゃふにゃにとろけてしまいそう……!!

 

 冬って寒くて嫌いだけど、これなら毎日でも良いわ!


 

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