クソゲー訪問販売業者
XX
クソゲーだって楽しいはず
「まぁまぁそう言わずに」
俺はつま先を玄関ドアの隙間に差し込んで、ドアが閉まるのを阻止した。
俺は訪問販売員。
消費者の家を訪ねて、クソゲーを売ることを生業にしている。
「要りませんよクソゲーなんて! 警察呼びますよ!?」
訪問先の一戸建ての奥さんは、俺に厳しい目を向けて来る。
やれやれ。
クソゲーだからって毛嫌いしなくても良くないか?
世にあるクソゲーと呼ばれているゲームたちは、ただ数多くの人々に「面白くない」って言われただけのゲームなのに。
なんでそんなに自分が無いのか。
「何でそんなにクソゲーを嫌うんですか?」
「だってクソつまらないんでしょう?」
奥さんは身構えている。
やれやれ。
俺は溜息をつき
「……それは早計というものですよ。奥さん」
「早計?」
奥さんが反応した。
チャンス!
俺は商品を鞄から出しつつ説明をする。
「例えばこの大気の冒険譚という作品」
RPGタイトルだ。
その内容は
意味不明のストーリー。
装備の概念がひとまとめになってて、武器や防具、アクセサリーを選択する余地がない。
ダンジョンが1本道ですぐ終わる。
そういうもので。
そのせいでクソゲーの誹りを受けている、不遇のゲームだ。
「そんなの、どう考えても面白いと思えないわ!」
俺の説明を受けて、奥さんはプンプンしている。
俺は溜息をついた。
「あのですね」
俺は説明する。
意味不明のストーリーっていうのは、他のゲームではお目に掛かれない珍しい話だってことです。
つまりレアなんですよ。
装備の概念は、あれこれ考えなくていいので、プレイ時のストレスが低くなるってことです。
そしてダンジョン1本道もそう。
やっててストレスが溜まらない。
……忙しい主婦の奥さんにはピッタリのゲームじゃ無いですか。
あれこれ悩まなくても先に進めるんですよ?
俺のそんな言葉に。
奥さんは黙り込み、目をぐるぐるさせている。
……よし。
「そしてこの格闘士馬琴」
格闘ゲーム。
有名格闘漫画を題材にしたキャラゲーなんだけど。
主人公役以外、プロ声優でなく素人が声を充ててるんだ。
でもそれは……
思い切り笑いたいときには、うってつけ。
「あとこれ……幽霊の賭博場」
カジノゲームなんだけど、BGMが全く無いんだ。
BGMが聞こえないからと、テレビの音量を上げ過ぎて文句を言われることはない。
つまり、近所迷惑にならない!
……気が付くと。
俺の説明を、奥さんは食い入るように聞いていた。
そう……
欠点とされることは、長所かもしれないんだよ。
周りの意見に惑わされず、その長所に気づけることこそが、賢者ってもんじゃないのかな?
奥さんには、それが分かって貰えたらしい。
「……大気の冒険譚をいただくわ」
「5000円です。値段分以上の喜びがあると思います。奥さん、あなたなら」
……こうして。
俺は5000円で、大気の冒険譚というゲームを売った。
新品だから、定価で。
さーて。
今日も商売上手く行った!
俺の今日の仕事はここまでだ。
家に帰って遊ぶとしよう。
やりかけのゲームをしないとな!
大ファンのゲームシリーズを!
……20年以上続いている、伝説的な名作ゲームの最新作を!
クソゲー訪問販売業者 XX @yamakawauminosuke
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