雪遊びのあとで〜大陸から来た少年〜

青樹春夜(あおきはるや:旧halhal-

雪遊びのあとで

 雪遊びの最中は動き回っているせいか汗ばむほどなのに、一度動きを止めると急に雪の染みた手袋や革のブーツが冷たく感じて、慌てて家の中へ逃げ帰ることもある。


 シキとカガリが雪合戦を始めたのを皮切りに、カミタカとユーリもコートや手袋という防寒着を身につけて参戦した。


 そうなると学者肌のユーリと華奢きゃしゃなシキは不利になり、女神のカガリと渡り合えるのは運動神経の良いカミタカだけになる。


「あー、もう。あの二人にはかなわない」


 シキはだいぶ湿った手袋を外しながら、ぼやく。その後を追って来たユーリも、雪まみれになったお気に入りのフェルトの帽子を脱ぎながら、まだ雪玉を投げ合っている二人に目をやる。


「コントロールがいいですよね。おかげで黒の帽子が真っ白ですよ」


「ユーリのインバネスも背中が真っ白よ」


 シキはユーリの背中に付いた雪をはたき落としてやる。


「カミタカは——いえ、なんでもないです」


 ユーリはカミタカがシキには決して雪玉を当てないことを言おうとしてやめた。深い意味はないのだが、伝えればシキの気持ちがますますカミタカに傾く気がしてしまったのだ。


 ——別に伝えたっていいじゃないか。


 心の中でそう思っても、伝えた瞬間に背中の雪を落としてくれている手が止まってしまうのは目に見えていた。


 その気持ちに気がつくと、ユーリは慌ててシキから離れた。


「もう大丈夫です。……手袋、濡れてしまいましたね」


「そうね。これ以上雪遊びは無理かな。中でお茶でも飲んで暖まりましょ」


「ええ」




 まだ雪遊びに興じる二人を置いて家の中に入ると、玄関でブーツの雪を落とす。それから上着や帽子、手袋にマフラーを外して壁や帽子かけにかけていく。


「あー、ヤダ。靴下も濡れてる」


 シキは壁に手をついて立ったまま膝を曲げて靴下を引っ張って脱ぐ。冬用ワンピースの下に防寒用のズボンを履いているが、靴下を脱げば素足だ。


 白ずくめのワンピースと下ズボンの姿に、ほんのりあからむ素足を見てユーリは心が騒いだ。


 なめらかな作り物のような綺麗なつま先がしなやかに曲がり冷たい床につく、そこ一連の仕草があまりにも眩しく感じられて胸が高鳴る。


 ——……気にしない、気にしない。別に見慣れた光景じゃないか。


 裸足のまま、シキは床の冷たさを避けるように軽やかにステップを踏んで室内へと踊るように入って行く。


 その様子も愛しく感じられてユーリはさらに戸惑う。


 ——妖精が踊っているようだ。


 シキに見惚れて動きを止めていると、ドアからひょこっとシキが顔を出した。


「お茶とココア、どっちがいいかな?」


「え……と、ココアの方がみんな喜ぶと思います」


「そうよねー」


 一人納得するシキはすぐに姿を消した。きっと後から来るみんなのためにココアを作ってくれるのだろう。


「……お手伝いしなければ、ね」


 自分に言い聞かせるようにつぶやくと、ユーリも部屋の中へ向かった。




 雪遊びのあとで〜大陸から来た少年〜 了

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