水の精霊に転生した俺はスローライフ過ぎて暇だしTRPGに飢えてるしカップルムカつくから、からかうことにした。

ぷり

オレはカップルに挟まるTRPGおじさんになる!

 オレは湖に住む精霊だ。水の精霊。名前? そんなものはない。

 転生してここに来た瞬間から、オレの人生――いや、精霊生は退屈そのものだった。


 人間だったときはあれだけスローライフに憧れていたのにな。

 ちがう、これはオレが望んだスローライフではない。


 最初はテンション上がったんだよ?


 ファンタジーっぽい湖、透明な水、神秘的な雰囲気。


 でも実際の生活は、ずっと湖に漂っているだけ。人間はほとんど誰も来ないし、何も起きない。


 だが、しかし。

 今日も今日とて、暇を持て余してたら、なんか来たんだよ。若いカップルが。


 前を緊張したツラで歩く黒髪少年と、少しうつむき加減の金髪の少女。


「……」


 なんか、むかつくな?


 こちとら前世で恋人もいなかった。

 おまけに生まれ変わったら、こんな性別もなんもない精霊。


 しかし、前世からの僻み癖はばっちり持ち合わせている。


「ケッ」


 ……と人間のように声を出すわけではないが、そう言いたい状態だというのはわかってほしい。


 そんな風に腐っていると、カップルの声が聞こえてくる。


「……まさか、お前と婚約するとはな」


 青年――いや、まだ少年だな。

 黒髪の少年、あれは身なり的に貴族だろう。

 ……そうか、こいつらはカップルと言っても自分たちの意志でそうなってるわけじゃないんだな。


 なーんだ。許す。



「本当びっくりね」


 少女のほうも、すました顔だが、髪の毛を指先でくるくるしている。

 緊張しているんだろうな。


 なんだこれ甘酸っぱい。


 ちょっと微笑ましい気持ちになりかけたその時。


「実は……マリッサ、お前がずっと好きだった」

「ミ……ミカエル……」


 少年のほうが、少女の両肩に手を置き、見つめながらそう言った。

 少女の方は真っ赤になって口をパクパクしている。――どう見ても両思いだな!?


 スン……。(←オレの気持ちが萎える音)


 おいおい!! なんだよ!! 意にそぐわず婚約させられた二人かと思ったら、なんですか!! この展開!!


 くそ、面白くねええ!


 と思ってたら、更にミカエルが言葉を紡ごうとした。


「まあ……良い機会だから言っておこうと思う……。お前はこの婚約が嫌かもしれないが少なくともオレは――」


 だが、次の瞬間!!


「やだああああ! 恥ずかしいいいいいっ!!!」


 真面目に告白するミカエル少年に対し、マリッサ少女のほうが、恥ずかしさマックスになったのか、力の限り、ミカエルとやらを、突き飛ばしてしまった。


 おーい! マリッサ!? 結構いい性格してんな!?


「うぉあ!?」


 ばしゃぁああん!!



 オレの眼の前でぶくぶくと沈んでいくミカエル。あーあ……。



 そこで俺は閃いた。


 ――そういえば、前世で水の精霊が正直者に金斧銀斧をくれてやる話があったな。


 俺は思った。


 それをシナリオに――こ い つ ら と 遊 ぼ う。

 

 前世でTRPGのGMゲームマスターをやってた経験がある。


 ちょっとしたTRPGだと思えばイケルイケル。

 それにオレいま、水の精霊だし、すっげえ、おあつらえなシチュエーションだ。


 オレはカップルに挟まるTRPGおじさんになる!!


 そう思うや否や、オレは――


 ばしゃぁ……っ。

 

 いきなり湖から姿を表した。


 水なので姿はどうとでもなる。

 オレは前世でゲームなどで見かけた水の女神を真似て形作った。

 

「だ、だれー!?」


 尻もちをつくマリッサ。

 よく見るとかなりの美少女。ちくしょう、ミカエルめ。

 

「私は……この湖に住まう女神……」


 オレは早速ロールプレイを始めた。

 ロールプレイとは役割を演じるということだが、わかるかい?


 そしてオレはすかさず、魔法を使ってミカエルの複製を作った。

 水の魔法だから鏡のように姿を写し取っただけだけどな。中身は実質水。

 でも人間もほとんど水だからあんまかわらんやろ(適当)


 本物のミカエルの方は、空気の入った水の泡で包み、待機させてある。

 なんかなかで暴れてるが放置。


 さあ、あの有名なセリフをはくぞ!

 

「 あなたが落としたのはこの金髪のマイケル (Michael)ですか? 」


 ざばあ! オレの伸ばした右側に金髪のミカエルが現れた。

  

「 それともこちらの銀髪のミヒャエル (Michael)ですか? 」


 ざばあ! 左には銀髪のミカエルが現れた。

 いやあ、ミカエルって名前、名前のバリエーションが作りやすくて良いな!


「み、ミカエルが!? 二人!? いや、それより髪色が……どうなってるの!?」


 気になるだろう。その質問は当然だ。

 だが、オレはそれに答えず、同じ言葉を繰り返した。

 

「金髪のマイケル、銀髪のミヒャエル……どちらを選びますか?」


「あ……い、いえ――」

 

 マリッサ小女は切実そうに、こう言った。


「め、女神様。私が落としたのは黒髪のミカエル (Mikael)です……! お願いです! ミカエルをお助けください!!」


 素直な答え。良いね、こういう子、好きだよ。

 しかも、オレをちゃんと女神だと信じてくれた模様。

 だから俺はニッコリ笑って、こう返した。


「スバラシイ……なんて素直な子なんでしょう。ご褒美に全部のミッキーをあげましょう」


「み、ミッキー!?」


 なんだよ、全員に通じる愛称で可愛いだろ。

 まあそれはともかく。


 オレは待機させておいたミカエルを水泡から解放し、地上にもどした。


「ぷはぁ……!」


 息はできてたはずだが、気分的なものだろう、ミカエルが大きく息を吸い込む。


 そして、マリッサのもとへ金銀ミッキーも押し付ける。


「み、ミカぁ……!」


「なんだ?」

「なんだい?」


 両サイドから金銀に抱きしめられるマリッサ。


「ま、マリッサ………! って、オレ!? ……魔物どもめ!! お前らマリッサから離れろ!! ……お前たちはいったい何者だ!」


 ――ポタ…ポタ…、と水しずくを落とすミカエルの表情は固まっていたが、明らかに不審者なオレたちに怒りの矛先がいっている。

 少女がやらかしたことよりも、自分のコピーたちに目がいっている。


 フッ。さすがPC1。(オレが勝手に決めた)


 ちなみに、PC1というのはプレイヤーキャラクターの1番目、つまりこの場合はミカエルのこと。TRPGでは、メインとなる役割を担うキャラに当たる。

 つまりは主人公だ。

(※作者の個人的見解なので間違っている場合がございます)


「み、ミカエル!! 」


 マリッサが、ミカエルに手を伸ばす。


 「(うーん、いいねぇ。こういうシチュエーション!!)」


 しかし、銀髪のミヒャエルがその手を取った。


「大丈夫だ。心配してくれてありがとう。マリッサ……僕のことは、ミッフィーとでも呼んでくれ」


「み、ミッフィー!?」


 可愛い愛称自分で考えたな、ミヒャエル。なかなか出来たNPC……じゃなかったオレのしもべ。


「おっと、オレの方も礼を言わないとな。お前のおかげで生まれる事ができた……メルシー。オレのことはマイコーとでも」


 金髪のマイケルがマリッサの髪をひとすくいし、キスをする。

 

「な……! な……!!」


 ミカエルがその状況を見て怒りをあらわにする。

 顔が自分なだけに複雑だろう、そうだろう(笑)


「お前ら! マリッサに触るな!!」


 そして、金銀に掴みかかろうとした。


「おっと、その行動をするなら、ダイスを振ってもらおうか」


 女神のロールプレイを忘れて、割って入るオレ。ミカエルにダイスを手渡す。


「女神さま……なぜ!?」


「いや、なにか行動するなら、やはりダイスを振ってもらわないと。金銀を説得するんだろ?」


 ここから、この状況に無理やりTRPG要素をねじ込む。オレはTRPGに飢えているんだ。

 オレはミカエルに6面ダイスを2つ握らせた。どっから出したかは聞かないでくれ。

 

 さあ、ノってもらうぜ!!


「2ダイス振って、オレが認める達成値が出たら、金銀を説得できる。あと説得は、ちゃんと言葉考えてロールしてくれな」


「なんだその要求! めんどくせええええ!?」


 明らかにキレたミカエルがオレの顔面に6面ダイス✕2を投げつけてきた!! 


「ぶはっ」


「ごらぁ!! GM《ゲームマスター》に逆らったな!! 次からペナルティあたえんぞ!? おい、おまけにダイス目が1と1!! ファンブルだ!! 大失敗だぞこのやろう!!」


GMゲームマスターってなんだよ!? お前水女神だろ!? 意味わからねえこと言ってんじゃねえぞ!? 喋り方がさっきから威厳なくなってるし!」


「いくら設定練って最初は頑張って演じてもな、だんだん疎かになって素の自分になってくもんなんだよ……かなしいことにな……特にキャンペーンだと……」


「意味わかんねえ!! 何の話だよ!? だいたい、ダイス振って達成値とやらが出なかったらどうなるんだよ!? ファンぶるったらなんだってんだ!!」


「え。そうだなぁ。ファンブルでたし、金銀と敵対することにしよう。ミッフィーの方がPC2……じゃなかったマリッサ君を更にくどく」


 PC2とは、TRPG(テーブルトークRPG)で『プレイヤーキャラクター2番目』のことだ。

 簡単に言うと、ゲームの中で中心となるキャラクターのひとり、しかも『ヒロイン役』としての立ち位置を担わされている……ことが多い。


(※作者の個人的見解なので間違っている場合がございます)



「え! 困ります!!」


 そこでPC2……じゃなかったマリッサが非難の声を上げた。


「いやまってくれGM。オレもマリッサを口説きたい」


 金髪のマイケルが挙手した。


「こいつ、口説くのに他人に許可を!?」


 まだ状況が飲み込めないミカエルがマイケルの行動に驚きの声を上げる。


「うん、行動宣言をGMにちゃんとする良い子だな、マイケル。たまに宣言しないでダイス振るやついるんだよ。いや~、マリッサもてもてだねぇ。じゃあお前ら二人もダイスふれ。達成値以上でたら口説いていいよ。ちゃんとセリフも考えろよ」


 コロコロ……サイは投げられた。


「成功!」←ミッフィー

「オレもだ」←マイケル


「私どうなるの!?」


 マリッサ涙目。


「そうだな。じゃあマリッサ、君もダイス振りなさい。抵抗ロールだ」


「抵抗!?」

「口説かれるか否か」


くそう、キャラシート作って精神値とかちゃんと決めたかった……。


「ダイスが私の心を決めるの!? 自分で決めるわよ、そんなの!?」


 TRPGによっては感情をダイスで決めることもあるからなぁ。ぜひ、やってもらおう。

 あー……なつかしー。ルールブック集めてぇ。

 次生まれるならTRPGがあってTRPGする仲間が揃いやすい世界にしてください、本物の神様。


「マリッサ、オレを選んでくれないか……君を愛している」

「マリッサ……なぜオレを選ばなかった? 金を選ぶべきだっただろう?」


「もおおおお!! 私はミカエルが好きなのおおおお!!」


 バシーン!とダイスを地面に叩きつけるマリッサ。

 なんだかんだ付き合いいいな!

 いきなり現れた水の女神に逆らうのはよくないと、やってるだけかもしれんが。ありがたい。


 ダイス目は6ゾロ目……Critical!!


「おおおおおおおお!!!」


「え、な、なんだ!?


「クリティカルだ!!!」


「クリティカルおめえ!!」


「えーっとクリティカルがでたんで、二人共あきらめなさい」


「うーい、しょうがねえな。君の気持ちはわかった、あきらめよう、マリッサ……」


「フッ。後悔するなよ、マリッサ。ミカエル、マリッサのことたのんだぜ……」



 キラキラと湖に消えていく二人。


 うん、良い演出だ。いいなー。前世ではできなかった演出だ。

 オレは演出派のマスターだった。

 BGMやら立ち絵やら用意したもんなー。あ~懐かしい。


「マイコォ……!」

「ミッフィー!!」


 演出に飲まれて、思わず十年来の親友のように見送るミカエルとマリッサ。

 そのあと、「しまった、思わず!?」とか我に返っていたが。


 『ははは』


 まあ、TRPGといえるほどのものではないし、どちらかといえば茶番。

 だが、ひさしぶりにTRPGもどきができて楽しかった。




 ~数年後~


「ああ、だめ。水ちゃま、それはマンチな行動です」

「ええー、これくらいでー?」

「ペナルティです。次の行動に-5」

「ちぇー」



 実はこの湖はミカエルの領地だったため、あれからも二人はたまにここを訪れ、湖に話しかけてくれた。

 ちなみに、水の女神なんかじゃないってのはとっくにバレてた。


 喧嘩したときはどちらか1人がここにきてオレに愚痴を言い、オレはそれを聞いてやった。暇つぶしに。悩みがあるときもウンウン聞いてやった。聞くだけだけど。


 時が過ぎて二人に子どもができたら、今度はその子どもがオレに懐いてきた。

 ファミリーで来るときもある。

 ちょっと騒がしい。まあ、暇だから相手してやるがな。


 それにしても、オレは、前世では子どもなんて嫌いだったはずなんだがな。

 もちろん、TRPGのシナリオ中では好きだった。

 子どもは助けて良い格好するための、良いパーツ、ヒロインだったからな。


 なのに。

 赤ん坊のころから不思議そうにオレを見てくるこいつに、だんだんと愛おしさってやつが湧いてきた。


「みずちゃま、今度はみずちゃまがGMやってー」

「よっしゃ」


 そのうちこいつが学校へいったら、友達を連れてくるように言おう。

 そしたら複数人でプレイできるからな。


 その時が楽しみだ。


「みずちゃまー」

「なんだ」

「だいすきー。大人になったら結婚してー」


「オレは水の精霊だから無理だ」

「うわーん」

 

「うん、よしよし。けどおまえはオレの愛し子だ。いつまでも見守っててやるから」


 実体がないので、水で手の形をつくって、撫でる振り。

 ふれあいなど出来ないオレには、これが精一杯だが、それでもおこちゃまは満足なようで、笑顔になった。

 

「それに、おまえにはオレと契約する力があるから、そうしたら色々力になってやる。そのうち、な」


 契約、という難しいことばを理解するにはまだ幼子。きょとんとしたが、何か特別感を感じたようで、


「うん!」


 と満面の笑みを浮かべた。

 よーし、いい子だ。


 こいつが結婚して子を作り、その子がまた……となってもいつまでもオレはここにいるだろう。

 いつしかこの暇で静かな湖が居心地がよくなってしまった。


 いつかまた転生するときがくるまで、だが。


 まあ、暇だしな。

 

 いつまでもこの暇という名の平和が続くよう、オレは祈った。


 ――今日も暇で、ささやかに騒がしくありますように。



                おわり。

 

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水の精霊に転生した俺はスローライフ過ぎて暇だしTRPGに飢えてるしカップルムカつくから、からかうことにした。 ぷり @maruhi1221

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