―悪霊妃の伝承―


 光輝王オルグには数多のきょうだいがいたとされ、そのうちのひとりである妹ゲイレについては、女奴隷の母を持ち、その出自の低さから、詳細な記録は残っていない。

 ゲイレは隣国トキア王の側室として嫁いだのち、諸般の事情により自国に戻り、修道院で余生を送ったとされるのが定説だ。


 その一方で、民間伝承において語られる『悪霊妃ハル・ハヌムゲイレ』では、修道院送りを逃れた彼女はヤナル・サヒルの悪霊に嫁いだとしている。


 伝承にはいくつかレパートリーがあり、ゲイレは夫の力を駆使して光輝王オルグの影の右腕として暗躍したとも、逆に兄王と対立して一大勢力を築き、国の政局を左右したとも語られる。

 物語の真偽は定かではないが、どの伝承であっても彼女が美しき悪霊を従えていたことは変わらず、ヤナル・サヒルの焔の悪霊、ウレクデ・ヤナン・アラトとその妃の物語は、今も市民の心をとらえてやまない。


 

 

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ヤナル・サヒルの悪霊妃 黒田八束 @yatsukami

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