ノーネームヒーロー
最悪な贈り物
第1話
「おじさーん!!」
「お?よぉ、坊主!元気か?」
帽子を被った少しヒゲの生やしたおじさん。
僕がおじさんと呼ぶと、海岸沿いで元気におじさんは、返事をする。
「今何してるの?」
「釣りだよ!釣り!暇だからなぁ〜」
おじさんはとっても優しくて、色々なことを教えてくれる。
「おじさんはいっつも何してるの?」
「俺か?俺はなぁ、いっつも空を飛んでるんだ!ほら、空を見てみろ!」
「そら?」
僕は見上げる。
青く広がった空。
鳥が数羽飛んでいて、雲が広がっている。
何気ない空だ。
「空飛んでるんだ!おじさん凄い!!僕もおじさんみたいに空飛んでみたい!!」
「そうだな!まぁ、お前には無理だろうな!優秀な奴しか飛べねぇんだ!」
「ぼ、僕だって飛べるよ!」
おじさんは大きく笑い、僕の頭を撫でる。
「おめぇには飛びさせねぇよ!」
「お、おじさんのいじわる!!」
「言っとけ言っとけ!」
僕はそんなおじさんとの日常がとても楽しかった。
僕はおじさんが大好きだった。
「今日は何してるの?」
それは同じく青い空の日だった。
「釣りだよ釣り!今日は大きいのが釣れそうだ!」
「そうなの?なんで?」
「なんとなくなぁ〜」
僕は足を振って、海岸の岩に座り、竿を降ろすおじさんが竿を引くのを待っていた。
すると、唐突に「お!」とおじさんが声を漏らす。
竿の先が少し揺れている。
「きた!?」
「ああ!!だが、まだだ…タイミングがあるのさ!こりゃあ大きいな!」
おじさんはニヤリと笑う。
「まだ?」
「まだだ!!」
「まだ?」
「まだだ!!!」
そしておじさんは、目をつぶっている所から一気にカッとまぶたを開いた。
「今!!!!!!!!」
そして、竿を上げる。
糸の先には大きな魚の姿が!!!
「お、おっきい!!!」
「はは!こりゃあ大漁だな!!」
そして、おじさんは、魚を少し海水で洗うと僕に渡す。
「ほら、お前が食え」
「え?い、良いの!!?」
「ああ。食え食え!お前みてぇな子供は腹いっぱいに飯食うのが当たり前だったろ?」
「あ、ありがとう!!!おじさん!!!」
僕が満面の笑みで笑った。
その時だった。
ウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!
サイレンのような、心臓に響く音がした。
そして、おじさんはその音を聞き、微笑を浮かべる。
「さあてと。お仕事って訳か。」
「おしごと?」
「ああ。お仕事だ。」
おじさんは、竿を僕に持たせた。
「どこ行くの?」
「空にだ。」
「ぼ、僕も行きたい!!」
「ふん。おめぇには乗らせねぇよ!一生、乗らせねぇ…!」
おじさんは、僕の頭を撫でた。
「神風の名にかけてな。」
最後にそう言った。
そして、おじさんは僕を置いて行った。
海岸沿いに僕だけ置いて。
今という時間は、これまでの名もなきヒーロー達が作り上げた今だ。
その事を、絶対に忘れないで欲しい。
おじさんの様に、いくつもの屍の上に、楽園があることを、忘れないで欲しい。
ノーネームヒーロー 最悪な贈り物 @Worstgift37564
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます