江口祥助の劣情
白、白、青・・・。うわ、あの子上下揃ってない。あれは、女バスか。ったく、部活を頑張るのはけっこうなことですが、こっちとしてはもう少しエッチなのを着けといてほしいところだね。そして、男子は華麗にスルー!!
おれ、江口祥助はこの手に入れた『透視』の力を使いこなし、今日も今日とて教室前廊下というお手軽絶景スポットを存分に満喫していた。
こんな近くに素晴らしい場所があるというのに、今までのおれときたら、来る日も来る日もスマホで画面越しにモザイクを眺めるだけ。あの時のおれに伝えたい。もっと身近に、もっと最高なリアルがあるぞ、と。
くだらない後悔に浸りつつ、次のターゲットが来たことに気付き、視線を定位置にセットする。
っと、なんだ、男か。男子は華麗に・・・
スルーしかけて顔を上げる。通りかかったその男子生徒がこちらを見ていた気がしたのだ。
しかし、そんなことはなかった。そんなはずがなかった。
すぐさまその目の前の男子、水瀬から視線を外す。水瀬が今更おれを気にかけることなどあるはずもない。こんな気まずさを感じているのがおれだけなんじゃないかと思えるほどに、水瀬はおれのことなど気にもしていない様子だ。
真っ直ぐに前だけを見てすたすたと歩くその姿は、気にするどころかおれの存在を認識すらしていないようにすら見える。
・・・場所を変えよう。
なんとなく、その場にいることに居心地の悪さを覚え、おれは水瀬とは反対の方向に歩きだした。
大丈夫。女子と秘境は星の数!
なんとなく次のスポットを探して歩いていたはずのおれだったが、気が付くと教室に戻り、自分の席でぼーっとまっさらな黒板を眺めていた。
チャイムが鳴り、担任が教室に入ってくる。
まぁ、ホームルーム始まる時間だったし、そろそろ教室戻っても良い時間だったもんな。我ながらなかなか悪くない時間管理能力だわ。
たしかにそこにある心のもやを無視して、おれはそう思うことにした。
学校で過ごす一日は長い。平日と休日の長さが同じという事実は、17年間生きてきてもなお、未だに信じられない。部活に入っている人たちはこれから練習だのミーティングだのに励むのだろう。ここからさらに数時間学校に拘束される。そう考えただけでも身震いがした。
ちょうど運動着の女子二人とすれ違う。
ふむ、授業終わりに見るスポブラには風情がありますね。ぐっときます。
下着ついでに目に映った二人の表情はきらきらと輝いていた。この力を駆使することで辛うじて楽しめているこの学校生活に、彼女たちは何を見出しているのだろう。
ため息を口の中で飲み込む。この時間ならゆっくり歩いたほうがちょうど電車の時間に合うだろう。重い足に気付かぬふりをして、おれは一歩一歩だらだらと靴箱へ歩いていった。
非日常カルテット あるぱか @R_paka
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