第2話 初めての出逢い

 詠唱が早口だからといって、ここまで信じてくれた(?)両親の期待を裏切るわけにもいかず、魔法学院の入試を受けることになった。


 しかし、王都に着いたところで問題が発生した。




「どこだかわからない……」




 学院の場所などを詳しく調べていなかったが、王都に着けばなんとかなるだろうと思っていた自分を殴りたい。


 同年代の子を探すが、あまりにも人が多くて誰が魔法学院の試験に向かっているのかわからない。




 とりあえず同年代と思われる人に話しかけてみて、魔法学院に向かうなら着いて行かせてもらおう。




 一人で歩いているあそこの茶髪の女の子にしよう!


 わたしが駆け寄ると、彼女はこちらに視線を向けてきた。




「………………………」




「………………………」




「………………………」




「…………どうかしましたか?」




「アッ、ナンデモナイデス」




「……そうですか」




 その子はスタスタとどこかへ行ってしまった。






「…………詰んじゃった」




 わたしは道の端で頭を抱えていた。




 親以外との会話の仕方忘れちゃったーーーー!!


 無理無理知らない人となんて話せませーん!


 このままじゃ魔法学院いけませんけど⁉︎




「………………」




 お父さんお母さん、親不孝な娘でごめんなさい。これまで育ててくれてありがとうございましたまる。




「………………」




 このまま帰るわけにはいかないんだけど、そうかと言って誰かに話しかける勇気もない。


 一体どうしよう……。




「ねぇ、あなたそこで何をしていらっしゃるの?」




「え?」




 急にかけられた声に顔をあげると、そこには美少女がいた。


 金髪碧眼のいかにも高貴そうな佇まいをしていて、本当にわたしと同じ人間なのかどうかすら怪しいと思ってしまう。


 都会の人ってこんなに綺麗なのかな……。




「お人形さんみたい……」




「わたくしは人形ではないのだけれど」




「あ、すみません……」




「それで、最初の質問は聞こえなかったかしら?」




「ア、イエ、キコエテマス」




 私が話すの下手すぎて、引かれた……。


 けれど、彼女はわたしのことを観察するように見てから尋ねてきた。




「……あなた、魔法学院の試験を受けにきたのかしら?」




「ア、ハイ……」




「場所がわからないとか?」




「そ、そうです……」




 この人、なんか私から離れていかないな……。




「じゃあ、わたくしと一緒にいらっしゃいな」




 あ、このひとはいい人だ!


 この人についていくしか、私に未来はない!




「あ、あなたも魔法学院に行かれるんですか?」




「ええそうですわ、だから一緒にとおさそいしてるんですのよ」




「ソ、ソウデスヨネ……」




 私は何を当たり前のことを聞いているんだ……。


 今度こそ私を置いていってしまうかもしれない……。


 そう思って彼女の方を伺うが、離れていく様子はない。




「行かないのかしら?」




「い、行きます!」




 どうして彼女が私に構おうとしてくれているのかは分からないが、この機を逃すわけにはいかない。




「じゃあこれに乗ってくださいまし」




「え?」




 目の前に止まっていた豪華な馬車に彼女は乗っていく。




「こ、これに乗るんですか?」




「それ以外に何があるというのかしら」




「デ、デスヨネー」




 私も彼女に続いて馬車に乗っていく。




「お、お邪魔しまーす……」




 こんな高そうなところにお邪魔したことがないので、恐る恐る足を踏み入れていく。


 馬車の中は広く、2人で座ると広すぎて落ち着かないくらいだ。




「そこにかけなさい」




 指示された席に座り、向かい側にその女の子が座る。私の顔をまっすぐ




「そういえば自己紹介がまだでしたわね、わたくしの名前はルシアン・フォン・ダルヴァーヌ。ダルヴァーヌ家の長女で、跡継ぎになりますわ」




 自己紹介をする彼女の所作は座りながらにもかかわらずとても美しく、自分と住んでいる世界が違うことをまざまざと認識させられる。




「ダルヴァーヌ家はご存知ですわよね?」




 し、知らない……。そ、そんなに有名なお家なのだろうか。


 でも、馬車で魔術学院まで一緒に向かってもらっているのに知らないなんて言いにくい。なんとか話を合わせるとい手も……。




「す、すみません! 知らないです!」




 でも、お母さんから嘘をつくような子にはなるなって言われたから。目を瞑り、少し大きな声で伝える。




「…………」




「…………すみません」




 ダルヴァーヌさんが何も言わない……。


 やっぱり怒らせちゃったかなぁ。あの話しぶりだときっとかなり有名なお家っぽいもんね。


 けれど、その後彼女からかけられた言葉は私の予想と相反して、優しいものだった。




「何を謝ってらっしゃるの?」




「え、私がダルヴァーヌさんのこと知らなかったから……」




 彼女は微笑みながら言葉を返してきた。




「別にそんなこと気にしなくてよくてよ」




「でも……」




「わたくしの聞き方が悪かったですわね、申し訳ございません。わたくしが努力してダルヴァーヌ家の名前を誰もが知ってるものとしてみせますわ」




「ダルヴァーヌさん……」




「わたくしのことはダルヴァーヌではなく、ルシアと呼んでくださらない?」




「ルルルルルルルル、ルシアさん……」




「わたくしはそんな名前ではないのですけれど……」




 ファーストネームを呼ぶのってなかなか難しい。

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静黙の魔女に憧れて~最強にはなれたけど、早口の魔女でした~ 和久津雨音 @wakutsurain

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