静黙の魔女に憧れて~最強にはなれたけど、早口の魔女でした~

和久津雨音

第1話 私の憧れた魔女……じゃない!

 私、ミリア・リーズヴェルトには友達がいなかった。


 いや、正確にはみんな離れていってしまったというべきか。




「それでねそれでね。わたしがその小さなうさぎさんを追いかけるとお父さんとお母さんみたいなうさぎさんまでいてすごい可愛かったんだよ。みんなにも見てもらいたかったな。たしかここからそんなに遠くなかったんだけどよければみんなでーーーー」




「ミリアちゃんって、早口で何言ってるかわからないんだよね」




 昔から自分が好きなことについて喋る時に早口になってしまう癖があった。


 そんなわたしを馬鹿にする子が一人いて、次第にみんながわたしを馬鹿にするようになった。


 そして、わたしは一人になった。




 友達がいなかった私は本を読むようになった。


 両親が読書家なこともあって家には大量の本があり、読む本に困ることはなかった。


 その中でもお伽噺に惹かれた。まぁ五歳の子供が好きになる本なんて、あまり難しい本になるはずもない。


 強い魔物をたくさん倒した勇者の話、大きな海を渡り世界各地を目指す海賊の話、様々な困難を乗り越えて結ばれようとする大恋愛のお話。


 どれもが私をわくわくさせたが、ある日私は運命の1冊に出会う。


 それは「静黙の魔女」のお話。


 「静黙の魔女」は無口でほとんど言葉をしゃべらない。けれど、「静黙の魔女」は魔法を行使するために必須と言われる詠唱を行わずに、強大な魔法を行使したという。


 その魔法は人々を魔物や災害から救い、多くの人々から感謝され、彼は多くの人に囲まれるようになったという。




 所詮、御伽話だ。そんな魔女が存在したわけではないだろう。




 それでも、私は彼女みたいになりたいと思った。


 早口で喋るみっともないわたしから、静かで落ち着きのある大人の女性に。




 魔法使いの家系でもない家には魔法の本は一冊しかなく、そこには魔法は使った分だけ早くなり強くなるのだと書いてあった。




 だったらとにかく努力するしかない。


 それから私は毎日毎日魔法の練習をした。


 悲しいことに友達は離れていって一人もおらず、誰かと遊ぶこともなかったので、毎日を練習に充てることができた。


 両親も最初の頃はわたsいのことを心配していたが、途中で諦めたようで何も言わなくなった。




「炎よ。我が視界を照らせ!」




 初めて魔法が成功した時は飛び上がり、踊ってしまった。


 私の指先から小さな、マッチ一本分の炎が出ただけだけれど、とても嬉しかったのを覚えている。


 これで静黙の魔法使いに少しだけ近づくことができたのだと。


 けれど、わたしにはそれを話す友達がいなかった。


 それまでは魔法に夢中で気づかなかったが、わたしの中には寂しいという感情があったことに気づいた。


 だからこそ決意は強まった。


 早く静黙の魔法使いのような、素晴らしい魔法使いになって沢山の人に囲まれようと。




 私は使えるようになった魔法を見せたら、うちはそんなに裕福でもないのに両親は杖を買ってくれた。


 杖はわたしの魔法を一回り大きいものに変えてくれた。




 そして、私は凄い魔女になって、友達を作るという目標のために毎日魔法の詠唱を続けた。


 晴れの日も曇りの日も、雨の日も雪の日も、うさぎがいっぱいいた日も、うさぎが狼に食べられてる日も。


 少しずつ使える魔法は増え、詠唱もスラスラと唱えられるようになっていった。




 そして、魔法の練習を始めてから七年。私は十二歳になり、王都にある魔法学院に入学できる年齢になった。




 きっと魔法の使い手として有能であれば、いろんな人に話しかけてもらえるだろう。


 もしかしたら、学年一の人気者になってしまうかもしれない。


 学校外からも私のことを噂に聞いた人たちがたくさんやってくるかもしれない。


 あんまり注目されすぎると困っちゃうな……。




 魔法学院入学を目指して、王都へ出発する準備を整え、いざ向かう前に一発、魔法撃っておきますか。




「ホノオヨ。ワガミヲオソワントスルジャアクヲハライ、ソノコトゴトクヲモヤシツクセ。サラニワガミヲオソイシジャアクニソナエ、ワレノマワリヲマモリタマエ」




 こんなに早く詠唱できるようになったのだ。ここまで早い詠唱できる人はなかなかいないでしょう!




 ………………………。




 ………………。




 …………。




 ……。




 いや、これじゃあ早口でドン引きされるの何も変わってないじゃん⁉︎

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