illumination
その施設では霊について研究していた。
霊について調べていることは公には明かされていない。霊の存在を明かすことは社会的な混乱やトラブルを招く原因となってしまうから。それに、霊なんていないって思わせておいた方が、その性質上楽だから。
霊とは人の認知によって生じる怪異的なものであり、その中には人の意思が介在するものもある。しかし、その意思は本人のものではなく、あくまで霊が発生した際の元となった人間の思考を丸写ししただけのコピーペースト的なものだ。だから、それは本人とは言わない。予想外に発生した例は機械的に処理されることになっている。それは存在を認められていないから。
俺はその施設のオフィスで霊体の可視化にまつわる研究を行っていた。霊体というものは見えないものだ。でも、特殊な波長の光を当てることで限定的ながら視認することができるようになる。「エクトプラズム光」と呼ばれるそれを発展応用し、霊体を視認可能にするレンズを作る。それが俺の目下の目標だ。正確には目標だった。
試作品を使った俺の前には、淡く青色に光る君がいた。数年前の事故で亡くなった君。忘れたくても忘れられなかった君。もう一度会いたいと思っていた君。
そんな君が、霊としてそこにいる。
「や、元気?」
「元気って……本当にお前なのか?」
「まあ厳密には違うかな。あくまで自分の欠片の一つって感じだよ。自分ではあるけど自分では無い……ふふ、ちょっと難しいね」
霊の声は特定条件下でのみ聞こえる。力学的作用とかそういったものが関係しているようだが、生憎座学はさっぱりで詳しいことは分かんない。
「でも、お前、どうしてここに」
「もうそろそろ年の瀬だろ? なのにお前は根詰めて働いて……身体壊して死ぬぞまじで」
「そんなこと、そんなことはどうでもいいんだ。なんで君がそこにいるのか、それが知りたいんだ」
「なんでって……強いて言うなら──」
身構える。なんて返ってくるのだろうかと予測する。やはり「心配だから」とかそんな単純な理由だったりするのだろうか。それなら受け流せるのでいいのだが。
「──正月も独りで居そうだったから?」
「……は?」
なんだその理由。やっぱり、お前はお前だよ。霊だろうと思考のコピペの産物だろうと、お前には敵わないわ。
「そういや、霊って青白く光るんだね」
「身体を構成する粒子が発光性を持っていて、特殊な光を当てるとそうなるんだって」
「はへ〜」
彼は「じゃあさ」と言って、身体を霧散させた。
「おまっ、な、なにして──」
「こうすりゃ華やかになるだろ?」
「でも、そうしたら消えてしまうじゃないか」
「大丈夫だって。俺は、傍にいる。粒子になっても、傍にいてやる」
身体がふっと消え、辺りに青白い光が散った。それはまるで青色のイルミネーションが部屋を照らしているようだった。ああ、終わってしまった。
来年はどう生きよう。
なんとかなるかの気持ちを持ちつつ、霊体研究を続ける。またいつの日か、散ってしまった君を元に戻すために。
追記: noteにて公開したものと同一の作品です
連続怪奇小説 @terukami
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