第3話 クッキー作り

「うえーい。飼い主さんから薄力粉もらった。」

嬉しそうにエレンがそう言った。

「何でそんなにうれしそうなの_?」

薄力粉ってもらっても普通のうさぎはそんなに喜ばなくない_?

まあ、召喚獣だから普通のうさぎを基準にしてはいけないのかもしれないけど。

「え?だって薄力粉ってクッキーの材料だよ?クッキーこれで作れんだよ?」

「でも、他にも材料あるでしょ?」

「ほかの材料は全部冷蔵庫の中に入ってた。」

「え?じゃあクッキー作れる_?」

「うん、だから作ろ。まあ、食いたくないなら作るの手伝わなくてもいいけど。」

「まじか!!作ろう!」

そう言って、僕は机の上に置いてある薄力粉の方を見た。

すると、メルが薄力粉をつついて食べている。

「エレン、こいつを許すな。」

自分でも驚くくらい低い声で僕はそう言った。

「そうだね。作るものはクッキーから鳥の丸焼きに変更だよ。」

エレンも笑顔で包丁を取り出してそう言う。

メルがこちらの表情に気が付き、おびえた表情でこちらを見る。

エレンが、ゆっくりとメルに近づく。

「ぴ、ぴよ_。」

助けて、と言った様子でメルが僕の方を見る。

「ごめん、メル。死んで_?」

「ぴよぉ!?」

裏切られた!?と言った様子で鳥の丸焼き――おっと違う違う、メルがそう鳴く。

「ただいまー!」

ちょうどそこへ飼い主さんが帰ってくる。

「二人とも、どうしたの?」

「メルが、薄力粉食べた。」

エレンは端的にそう答えて、メルの方へまたゆっくりと近づきだす。

「な、なるほど。クッキーの材料を食べられたからか。」

そう言って、納得した様子の飼い主さんはメルの前へ出てエレンがメルを刺せないようにした。

「なんで!?」

エレンが怒った様子でそう言った。

「メルを殺しちゃだめだよ。可哀想だし、私が友達から怒られちゃうし。新しい薄力粉なら戸棚の中にあるからやめて。」

「むう。」

少しエレンはわかりやすくむくれた。

しかし、飼い主さんの言うことは絶対なので、仕方がなく包丁をしまった。そして、戸棚から薄力粉を取り出す。

飼い主さんは、メルに、

「良い?薄力粉は食べちゃダメだからね?体調を崩すかもしれないし。」

と、言い聞かせた。

メルは、

「ぴよ。」

とわかった、という様子でうなずいた。

そして、飼い主さんの肩にメルが飛び乗る。

「まあ、飼い主さんの左の方ならまだ許容範囲内かな?」

エレンがそう尋ねてくる。

「そうだね。まあ、右肩じゃないから許そう!」

「右肩と左肩の違いって何なんだろう_?」

「何だろうね?」

言っといてなんかもしれないけど、僕も知らんがな。

「え、契約のしるしに近いかどうかだよ?」

エレンが当たり前でしょ?と言った感じでそう言った。

「ああ、確かに。」

僕はそう言って、ボウルを取り出す。

そして、そのボウルにエレンが薄力粉を入れた。

ドバっと。

「え?」

「グラム数測ろうよ?」

せめてグラム数測ろうよ_?

ふるいでふるうのは後にしてもさ?

「ああ!確かに!」

こいつ、大丈夫か?

そう思っていると、エレンは引き出しからはかりを取り出して、その上にボウルを乗せた。そして、薄力粉をいったん袋の中に戻す。

そして、もう一度測りなおす。

グラム数を合わせて、クッキーづくりを再開する。

その後も、エレンが生地を練りすぎて上手くいかなくなりそうになったり、焼こうとしたクッキーの生地をメルがつついて食べようとしたり、とまあいろんなことがあったが何とか無事に(?)クッキーを作ることに成功した。

「おいしそう___。」

エレンが焼きあがったばかりのクッキーをじゅるり、とよだれを飲む音が聞こえてきそうなほどあついまなざしで見つめている。

「なあ、たべちゃだめなのか?」

うるんだ瞳で飼い主さんを見る。

普段はそんなこびを売るような顔はしないのに、現金なうさぎだ。

「うっ、だ、だめだよ。まだ熱いから食べたらやけどしちゃう。」

飼い主さんはそのエレンの可愛らしい笑顔にもなんとか耐えてそう言った。

流石だ。

「あ!いいこと思いついた!」

「なんだ!?」

僕は即座にそうたずねた。

こいつのことだからきっととてつもなくまずいことを考えているんだろう。

「このクッキーに冷たい水をぶっかけたら冷めるんじゃねーの?」

「何でだよ。絶対しなしなになるだろ。今までの工程全部無駄になるよ。」

「え?あ、確かに。」

こいつ、本当に大丈夫だろうか?

「あとは数十分待ったら完成だね。」

飼い主さんはそう言って、エレンや僕の届かない高い戸棚の中にクッキーをいれた。

「どうして_?」

「クッキーの誘惑に二人が負けたら困るからね。これは二人のためなんだよ。」

「くっ。」

悔しそうにエレンがそううめいた。

「カードゲームでもして待っていようよ。」

そう言って、僕は何もないところからカードを取り出した。

そして遊ぶこと数十分。

「くっ、なぜ勝てない。なぜお前はそんなに強いんだっ。」

ダメージを喰らった様子でエレンがそう言った。

「っていうか、お前って名前何なの_?」

「ああ、そういえば自己紹介してなかったっけ?」

「うん。」

「ビスケット。」

「ふっ(笑)」

「飼い主さん、エレンに笑われた。」

僕は飼い主さんに通報した。

「え?エレン、ビスケットの名前を笑っちゃだめだよ。」

「そもそも、こんな名前つけた飼い主さんが悪い。」

僕がそう言って飼い主さんをにらむ。

「だって、召喚した直後にビスケットをあげたらすぐに食いついて美味しそうに食べたんだもん。」

「じゃあエレンは!?どうしてエレンなの?」

「かん、ってやつかな_?」

「どうして僕の名前をそのかんでつけてくれなかった!」

「ビスケットの名前、嫌だ?」

「ううん。嫌じゃないけどさ、エレンに笑われたのが嫌だ。」

「でも、ビスケット好きでしょ?」

「うん、正直言ってクッキーより好き。」

「そっか、じゃあ今度ビスケットを焼こう!」

「本当!?」

次の瞬間ぽんっ、と音がして姿がうさぎに変わってしまった。

「どうしたの?」

驚いた様子で飼い主さんが僕の顔をのぞき込む。

「ごめん、驚いたら変身が解けちゃった。」

そう言いながら僕は人型に変身した。

「ああ、そうなんだ。何とも無いならよかった。」

「クッキー食べよう。」

そう言って、エレンがクッキーの入っている戸棚を指さした。

「うん、いいよ。」

そう言って、飼い主さんは戸棚からクッキーを取り出して皿へ盛り、机の上に置いた。次の瞬間、食卓の上でいくさは始まった。エレンは皿が置かれた瞬間にクッキーを一気にガシッとたくさんつかみ取り、一つ一つに一口ずつかじりつく。

「あ!お前、エレン!ずるいぞ!」

どうやら、一口かじりつくことでよりたくさんのものを自分のものにしよう、という戦法ならしい。それならこっちだって。そう思い、僕は皿の中からできるだけたくさんのクッキーを布で包み、服の中に隠した。

「お前こそずるい!」

そう言ってエレンも真似してくる。

そうするとあっという間に机の上にたくさんあったはずのクッキーが全てなくなっていた。そして、戦は終わりを告げた。僕は、服の中から一枚づつクッキーを取り出し、ゆっくりと味わって食べる。

「あれっ?私の分は_?」

飼い主さんが驚いた様子で空っぽの皿を見た。

「ないっ!」

エレンが満面の笑みでそう言った。

「お前に慈悲の心はないのか。」

そう言って、僕は服の中から一枚取り出したクッキーを飼い主さんにあげた。

「あ、ビスケット。ありがとう、優しいね。」

そう言って、飼い主さんはクッキーを半分に割って、半分をメルにあげて、半分を食べた。そして、片手で僕の頭を撫でる。

分けてあげてよかった。

なでられて喜んでいる僕を羨ましそうにエレンが見つめている。

飼い主さんはエレンの方を見てそのことに気が付き、なでてしまった。

飼い主さんの手を独り占めできず、少し悲しい。

まあ、いいか。

今日も平和だし。

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もふっとコメディ!? 藍無 @270

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