第3話

 ぐぅ〜。

 自分のおなかの音で起きる


 ここは?

 目を開けると天井らしきものが見える。

 昔、山に登ったときにあったおしゃれなロッジを感じさせるような味のある太い木。その奥には三角屋根。 

 身体を起こしてみる。どうやら自分はソファの上に寝ていたようだ。手はある。足もある。ちゃんと動く。服は死んだときと同じもの。鞄はみあたらない。


 周りには大きな木をそのまま輪切りにしたような天板のテーブルと同じく木製の椅子。その中でもひときわ大きなテーブルがあった。

何年ものの木だろう?高そうだな。おおきな天板に思わず年輪を数えだした。


101、102、103…


「お、やっと起きたか」


 途方もない数の年輪に数えるのをやめようかと思いだしたその時、後ろから男の声がした。

 振り返るとそこにいたのはがっしりとした身長が2メートル近くありそうな巨体の男。半袖から覗く腕は筋肉質で、腕を一周するように入れ墨のような模様がある。

 

「大丈夫か?何度声かけても起きねぇし、今日はヴァンガル襲来だろ?そのうち討伐隊がくるだろうけど、危ねえから勝手に連れて帰ったぞ」

「ヴァンガル?」

「あれだけ中央のやつらが触れ回ってたのに襲来の話きいてなかったんか?」


 討伐?襲来?なんだそれは。まるでアニメやゲームの世界の言葉ではないか。想像してた死後の世界とは違いすぎて思考がとまる。


 ぎゅるる…ぎゅるぎゅるるるる〜!!

 …否、お腹が空きすぎて何も考えられない。


「あっははは!豪快な腹の音だな!よし、待ってろ、今試作品を作ってたところだ。ちょうどいい、味見してくれ!」

 

 どうやら自分はさっきの人に助けられ、これから食事までさせてもらえるようだ。見た目が怖いのと、話が噛み合わないので少し心配になったが優しい人なのだろう。


 それよりもお腹がすいた…

 ソファーの上で食べるのも悪いと思い、1番近くのテーブルにつく。テーブルに手を置き、なんとなく動かしてみると、

 なんと!頬ずりしたくなるようなツルツルである!

 木のぬくもりというよりもひんやり冷たく、大理石を思わせる触り心地だ。まあ大理石なんて触ったことはないのだが。


「待たせたな」

 大理石もどきの触り心地を楽しんでいるとさっきの男がエプロン姿で戻ってきた。

 手にはお盆を持っている。

「さ、遠慮なく食べてくれ。んで感想を聞かせてくれ」

 目の前に置かれたそれはホットケーキだった!2枚重ねられ、上には蜂蜜だろうか?てらりと光り、食欲をそそられる。そして横に添えられるのはホイップクリームとイチゴ。

「いただきます!」

 ナイフとフォークを手にまずはそのまま一口。次はクリームをつけて一口。イチゴも食べてみる。

 

「どうだ?うまくないだろ」

「え?」

 十分美味しいと思うがなんでそんなことを…。

 確かに少し…いやすごく甘くて胸焼けを起こしそうであるが。それに生クリームの泡立てが足りないのかホイップが少しゆるいように感じる。イチゴはさほど甘くない。悪く言えば水っぽいような…

 でもホットケーキ自体はとても美味しい。ほんのり甘く、ふわふわしていて焼色も均一だ。

「常連客にも出してみたんだか、こんなの甘すぎて食えるか!って怒鳴られちまってなあ。とりあえず生クリームの量を半分にしてみたんだが」

「これで半分!?」

 この倍のホイップクリームとなるとホットケーキより量が多いのでは…

「人気の生クリームを乗せればなんでも美味くなるって聞いたんだけどな」

 向かいにドカッ座り、考え込んでいるのか腕組みをしながらゔーんと唸っている。

 助けてくれた上に食事まで出しくれたのだ。残す選択肢はない。あとで胃腸薬を探しに行こう。そう決めてクリームをたっぷりつけたホットケーキを頬張る。なんとか最後の一口を食べきった。


「ごちそうさまでした。美味しかったです」

まだ目の前で唸っている男に感謝を述べる。

「全部喰ったのか!残してくれても良かったんだがな」

 そういいながらも嬉しそうに微笑む男。

 やっぱり悪い人じゃないみたい。

 

「なあ、ねえちゃん。どうやったらもっと美味しくなると思う?」

「そうですね…甘さが苦手な人には食べ切れないかと思うので、クリームを減らすか、少し甘さを抑えたクリームを使用すればいいのかと…」

「甘さを抑えたクリーム?そんなのがあるんか?」

「砂糖を減らせばいいんじゃないでしょうか?」

「砂糖を減らすとホイップ状にならないって聞いたぜ?」


 たしか砂糖を全く入れなくてもホイップクリームにはなるはずだ。逆に砂糖を入れすぎるとゆるいホイップクリームになりやすいのではなかっただろうか?


 またもや噛み合わない会話に両者が首をかしげる。


「一階にキッチンがあるんだ。作り方見てくれねぇか?」

「ええ、もちろん」


 助けてもらった恩がある。皿洗いくらいはしなければと立ち上がり食器をまとめ手にもつが、階段が急だから足元に気をつけてくれ、そういいながら男は水琴の持っている食器を取り上げた。

 階段は螺旋状になっており、確かに少し急だ。


 皿を落として割るようなことがあれば、恩に仇で返すことになる。

 この天国だか、地獄だかに来た理由もバランスを崩して線路に落ちたことが原因だったのをを思い出し、素直にお願いした。


 

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《仮》趣味、異世界転生。 加密列 @chamomile-chamomile

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