第4話 お嬢様と爺やと初めての仲間
冒険者になった翌日の朝。アリスは昨日とは打って変わって生まれて初めての活動的な服に身を包むとエイジを連れて冒険者ギルドへと向かった。エイジもアリスに合わせた装いをしている。
「ごきげんよう」
アリスは冒険者ギルドに入ると挨拶を入れた。彼女に気づいた冒険者たちは言葉は返してこなかったものの、軽く頭を下げて挨拶の会釈を返す。
「今日も冒険者の仲間を探しますわ」
「お力添えさせていただきます」
アリスは仲間を探すことに躍起になっていた。今日は無策ではなく、エイジの知恵が付いている。
「昨日出させていただいた募集の張り紙の件ですが、何か反応はありましたか?」
「今朝一名から興味があるとの申し出がありましたよ」
アリスがギルドの受付に確認を取りに行くと一名の志望者がいることがわかった。
アリスは受付に取り次いでもらい、その人物を面接のために呼び出すことにした。
呼び出しから十数分後、一人の青年がアリスのところを訪ねてきた。彼こそがアリスのパーティ募集に応募してきた人物であった。
青年はアリスより頭一つ分ほど高い背丈にツンと立った赤髪、体格はきっちりと引き締まっている。
「ごきげんよう」
「は、はじめまして……」
青年はアリスを前にして緊張していた。というのも、アリスの隣にいるエイジがただならぬ威圧感を放っていたためである。その威圧感は『下手なことを抜かせば即座に処す』と言わんばかりであった。
「どうぞ、そちらへお掛けになって」
アリスはギルドにあったテーブル一つを陣取ると、男に向かい側に着席するように促した。
エイジはアリスの隣で立ったまま静かに佇んでいる。
「では面接を始めますわ」
「よろしくお願いします」
こうしてアリスによる面接が始まった。
「まずお名前を教えていただけますか?」
「自分、ライル・アスラって言うっス」
男は緊張で背筋を伸ばしたまま答えた。彼の名はライル、活動歴二年ほどの若手冒険者である。
「ライルさんですわね。では次に我がパーティを選んでくださった、その理由を教えていただけますか?」
「えっと……前衛職を募集していると聞いたんで、それで」
「……それだけですの?」
それっぽい理由を語るライルにアリスは静かに詰めかかった。社交界の場で同年代の少年少女からのアピールを数多く経験しているアリスには言葉の奥を見透かすことなど容易である。そんな彼女にはライルがまだ他の動機を隠し持っていることが筒抜けであった。
「まだ私に隠している理由があるように見えますわ。よろしければお話ししてくださる?」
「じゃあ、正直に話すっス」
アリスに看破されたライルは隠していた別の動機を打ち明けることにした。アリスは次の言葉を楽しみに待っているがエイジはライルの次の言葉がなんとなく予想できていた。
「実のところ、クエストの同行で追加報酬が出るっていうのに引かれたっス」
「そのお話、もう少し詳しく聞かせてくださる?」
「自分ち、父が行方くらましちゃって今は自分と母と妹の三人暮らしなんス。妹をいい学校にいれてやりたいんスけど自分だけの稼ぎじゃ全然足りなくて」
ライルは給料に引かれた理由を明かした。
彼の家庭はワケありの母子家庭であり、稼ぎが十分ではない。それでも妹を学校に入れるためにより高い稼ぎを得ようと今回パーティ加入を志望したのである。
「ふむ。理由としてはもっともですな」
「ご家族のために身体を張れるなんて素敵なお方ですわ」
ライルの言い分は稼ぎが欲しい動機としては至極真っ当なものであった。エイジとアリスはそのまっすぐさに感心する。
「ライルさん、何か特技はありますか?」
「自分、少しだけ大工やってたことあるんで体力には自信あるっス。組み立て解体荷物持ちまでなんでもござれっスよ」
「気に入りましたわ。採用させていただきましょう」
ライルが特技を語るとアリスはすっかりそれを気に入ってライルに採用を言い渡した。彼の素朴で真っ直ぐな人柄、体力面での前衛的性の高さはアリスが思い描く理想の前衛に高いものがあった。
「ありがとうございます!期待に応えられるよう精一杯頑張るっス!」
「アリス様と冒険する以上、恥をかかせるようなことはあってはなりませんぞ」
「まあよいではありませんか爺や」
ライルは立ち上がって頭を下げるとエイジが小言をこぼし、アリスがそれを諌めた。
こうして、アリスの冒険者パーティに初めての仲間ライルが加入したのであった。
お転婆お嬢様、冒険者になる~困ったときは魔法のカードですわ~ 火蛍 @hotahota-hotaru
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