雪の夜が明けたら・・・
@akihazuki71
第1話
「あぁ、降ってきた。」
「とうとう降ってきましたね。」
「これはまた積もるんじゃないか。」
夜空から、ちらほらと雪が舞い下りて来た。
立ち並んでいる家々の窓からは明かりがこぼれていた。そんな中の隣り合った二軒の家の庭先に、雪だるまが三つ立っていた。
「これでボク達溶けないね。」
赤い屋根の家の前にある雪だるまの片方、頭に赤い小さなバケツをのせた方が嬉しそうに言った。そのすぐ隣にある雪だるまが不服そうに返した。
「何が溶けないだ、オレはいっそのこと溶けちまいたいよ。」
「えぇー、どうして?」
「オレの姿を見てみろよ、あの悪ガキ達のせいでボロボロだよ。」
この家の男の子二人は、雪が降り積もったことに大喜びして、雪だるまを二つ作ったところまでは良かったのだが。その後で雪合戦を始めて、最後には片方の雪だるまを標的にして遊んでいた。
そのせいで雪だるまはあちこち欠けて、いびつな姿をしていた。その上、バケツが一つしかなかったので、欠けた植木鉢を頭にのせられていた。
どうやらそのことも気に入らないようで、さらに文句を言った。
「おまけにこんな欠けた植木鉢なんかのせやがって・・・」
そんなやりとりを黙って聞いていた隣の家の雪だるまが、なだめるように言った。
「せっかく作ってくれたんだから、そんなこと言わないでくださいよ。」
おっとりとした口調に、植木鉢の雪だるまはさらに腹を立てたようで、皮肉るように言った。
「おまえはいいよな、あの優しい女の子に大事に、大事に、作ってもらえたんだから。」
隣の家の雪だるまは、泥汚れひとつない真っ白な雪玉で出来ていた。その上、水色のチェック模様のニット帽とお揃いのマフラー、小さな白いミトンのついた木の枝が差してあった。そのすべてが女の子のお気に入りだった。
「そうなんですよ、家の子は本当にいい子なんですよ。」
ニット帽の雪だるまはとても嬉しそうに微笑んだ。植木鉢の雪だるまは呆れて何も言わなかった。
その間にも雪は降り続き、辺りはうっすらと白くなり始めた。
「雪が降って穴がふさがったんじゃない?」
不意にバケツの雪だるまが、植木鉢の雪だるまに向かって言った。
「そうか・・・あんまり変わらないんじゃないか。」
「そんなことないって。ほら、その右側のところ。」
「え、本当か?本当か?・・・」
一番大きな穴が出来ていた右側の肩のところに雪が降り積もり、少しずつ丸い形に戻りつつあった。植木鉢の雪だるまは何度もたしかめるように繰り返した。
「良かったですね。」
ニット帽の雪だるまがやさしい声で言った。
それと同時に、頭の上のそれぞれの物にもこんもりと雪が積もり始めていた。
その後も雪は降り続け、夜半を過ぎた頃には吹雪いてきた。
「ねぇ、ボク達どうなっちゃうの?」
「そんなこと知るもんか!!!」
「わかりません。でも、大丈夫ですよ。」
「本当?」
「いい加減なことを言うな!」
「わたし達も雪なんだから大丈夫ですよ。」
雪だるま達の声は、吹雪にかき消されていった。
翌朝、吹雪は止んで、辺りは一面の銀世界となっていた。雪だるま達も雪に埋まっていて、かろうじて頭が見えるくらいだった。
すると、赤い屋根の家の玄関扉が勢いよく開いて、二人の男の子が飛び出して来た。雪に埋もれている雪だるまを見るなり、大騒ぎとなった。その声に両親も慌てて飛び出してきた。
雪をかき分けて雪だるまの所まで行こうとして、立ち往生している兄を救い出し、「雪だるまが、食べられた。」と言って泣きじゃくる弟を何とかなだめた。
その騒ぎを聞きつけて、隣の家の家族も外に出て来てひと騒ぎとなった。
両家共にどうにか雪だるまを掘り出して、何とか元の状態に戻し家の中に戻った。
「助かってよかったねぇ。」
赤いバケツをもう一度頭にのせてもらった雪だるまはにっこりと微笑んだ。
「はい、良かったですね。」
濡れたニット帽の代わりに、別のニット帽をのせてもらった雪だるまは同じように微笑んで応じた。
「・・・・・・・・。」
欠けた植木鉢は割れてしまったので、代わりに新しい青いバケツをのせてもらった雪だるまは、黙ったままだった。
する赤い赤いバケツの雪だるまが、何かに気が付いたようで。
「ねぇ、もしかして泣いてるの?」
「そんなわけないだろう、ううぅ・・・」
「泣いていますね。」
二人の男の子は割れてしまった植木鉢の代わりに、両親の頼んで新しいバケツを出してもらっていた。そして、「もう雪合戦はしない。」と雪だるまに謝っていた。
「二人とも本当はいい子なんだよ。」
「そうですね。」
「そうだな・・・」
空はまだ曇っていた。まだ雪は溶けそうになかった。
おわり
雪の夜が明けたら・・・ @akihazuki71
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