年越しのふたり。
竹串シュリンプ
年越しのふたり。
明side
ボーン…ボーン…
除夜の鐘が遠くの方から聞こえてくる。
今さっき気づいたが、今日は大晦日である。
冬休みだから時間の感覚が狂っていたのかもしれない。
受験生でもあり毎晩勉強してるからというのもあるかも…。
そう思いながら時計をチラッと見る。
時刻は23時40分。
「えっ、あと20分で来年…!?」
俺は思わず声を上げてしまった。
さすがに年越しは何かしたいなと思い、勉強を中断した。中学生最後の年越しだし。
でも、何をしよう。特にすることは考えていなかった。
「流星はなにしてんのかな…」
俺はふと親友のことを考える。
そういえば…
「僕さ、年越しの瞬間はその年最初の星をみたいんだ〜!初日の出みたいな感じで…。だから、今年の大晦日は窓際にずっーといるよ!」
って言ってたなぁ…。
流星は今は比較的病気の症状が落ち着いてて、退院してるから今は家にいるんだろう。
流星、中1のときも中2のときも年越しが病院だったからな。今年は家で過ごせて本当によかった…。
俺も窓際に近づいて、空を見上げる。
星がちらほら見える。
でも、少し眠くなってもう寝ようかなと思っていたら。
スマホに電話が来た。
流星だ。
『もしもーし!もうちょっとで年越しだね、あきら!』
「ああ、そうだな…今、星見てんの?」
『もっちろん!今年最後の星、みたいからね。あと、来年最初の星もみたいし。…あ、そうだ。あきら、窓の方きてよ』
俺は言われた通りに窓際に行くと、それほど遠くない流星の家を眺めた。
すると、流星が窓を開けて、あっちから手を振ってきた。
俺はくすっ、と笑って手を振りかえした。
『あきら〜!電話での会話になっちゃうけど、今年一年ありがと!来年から高校生だね…僕も、頑張って高校行けるようになるね!』
流星が嬉しそうに電話越しに話す。
あと1分で年越し。
「こちらこそ、今年一年ありがとな。これからもお互い頑張ろ。来年、絶対に高校一緒に行こうな。」
『うん!絶対!…あっ、あと10秒だよ!』
遠くの方で流星が空を見上げて、今年最後の星を目に焼き付けていた。俺も同じように空を見上げて星を見た。
年が明けた瞬間、流星が口をぱくぱくさせて、笑顔で言った。
「あ、け、ま、し、て、お、め、で、と、う!」
声は聞こえないけど、きっとこう言ってるんだろう。
俺は、まだ繋がっていた電話をもう一度手に取り、流星とまた話し始めた。
「あけましておめでとう。今年もよろしくな」
『うん、よろしくね!………あっ、流れ星!!!!』
「はっ、どこ!?」
どうやら俺が電話に気を取られてる隙に流れ星が通ったらしい。
『ねっ、見えた??今年最初の流れ星!!』
「また見えなかった…あー、悔しい!」
俺が流れ星を見れないのはいつものことだが、元旦に見られないとさらに悔しい。
『まあまあ、来年の元旦に見ればいいじゃん!』
「まあ…たしかに。」
『来年も一緒に見ようね!絶対!』
「おう、約束な」
来年も、その先もこうして流星と星を眺められたらな…。
俺はもう一度流星に手を振る。
流星は嬉しそうに手を振り、電話で『おやすみ!』と言った。
☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡☆彡★彡
俺は、約一年前の出来事を思い出していた。
今年の大晦日は、受験生だったあの頃に比べるとゆっくりすることができた。
「懐かしいな…。」
あの頃、一緒に星を眺めた彼はもうこの世にはいない。
今年の夏休み、長年患っていた病に命を奪われたのだ。
そのあと、俺は初めて流れ星をみることができた。
その流れ星は、流星が降らせてくれたものだと確信していた。
俺は今年も窓際に近づいて星を見る。
今年最後の星と、来年最初の星を見るために。
俺の手には、二つの小瓶が握られていた。
いわゆる、星の砂ってやつ。
ひとつは、流星のものだった。
亡くなった後、俺にくれたものだ。
「これで、一緒にみたことになるのかな」
俺は呟いた。
流星とみる、という約束を果たす方法がこれしか思いつかなかったから。
俺は時計を見る。あと10秒で年越しだ。
俺はもう一度小瓶を握り直す。
流星が一緒にいる気がした。
秒針が12になった瞬間。
「…あ、」
一筋の流れ星が通った。
とても綺麗だった。
今年最初の星が、流れ星だった。これを流星に言ったら、喜んだだろうな。
「これも流星が降らせてくれたのかな…」
きっと、そうだろう。
「…あけましておめでとう」
そう呟くと、また流れ星が通った。
これが流星なりの、
“あけましておめでとう”
なのかもしれない。
俺はそれで充分伝わった。
また、ふたりで星を見たい。
それが叶わないものだとしても。
来年も、その先も。
俺は星を見続けるから。
年越しのふたり。 竹串シュリンプ @fuyuchan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます