ある日、雪山の中。熊さんに出会った話。
シーラ
第1話
私は小学生の時から登山が好きでした。一人で登ったり、県主催の登山イベントに参加したり。大人になったら、山で働きたい。自ずと進路は決まっていました。
大人になり、無事に人より野生動物の方が多い山奥に就職が決まり。毎日楽しく生活していた、初めての冬。
その日、私は山の中腹にある滝に散歩に行きました。温かいコーヒーにストーブで焼いたクッキーをリュックに入れ。スキーウェアを身に纏い、スノーシューを履いて外に出れば。太陽を覆い被せるような雪が、空から静かに降り注いでいました。
『サラサラサラサラ』
結晶化している雪は積もる時にこんな音を立てて、耳に心地良く。雪が4メートルは積もっているので、普段見上げている高い木も可愛らしいサイズで雪から伸びていて。私の気配を察知したのか、ウサギやテンの新しい足跡を見つけては頬を緩ませ。雪が積もらなければ見られない雪景色を堪能しつつ、目的地まで歩いていると。ふと、20メートル程先に黒い服を着た人が立っているのが目に入りました。
この時期になると、またぎさんが活動されているのできっと知り合いだろうと思い。私は口元に巻いていたマフラーを下げ、大声で手を降り挨拶しました。
すると、声を掛けた主は高く飛び上がり四つ足で反対方向へ駆けていきました。そうです、クマだったんです。
全身が凍り付くような恐怖でしたが、踵を返し急いで家まで戻り、またぎさんのお家に報告に行きました。
またぎさんは私を家に入れてくれ、あたたかいストーブとほうじ茶を出してくれつつ、厳しい口調で話をしてくれました。
「それは運が良かったなぁ。気を抜いていた所に後ろから大声で叫ばれたから、驚いて逃げていったんだろう。
若いクマは普段は仲間同士つるんで山奥で生活しているんだが、時折度胸試しにワザと人間の住む所に降りてくるんだ。『お前、少し行ってこいよ!』ってノリでな。こういう場合は、熊鈴を身につけていた方が寄ってくるからタチが悪いんだ。
度胸試しに来てるから、逃げない個体が多い……今回は不意をつけたから、本当に運が良かった。隠れていた仲間達も一緒に逃げていったんだろう。でなきゃ、お前は今ここにはいない。
つうわけで。クマは冬はずっと冬眠してると思ったら、それは大間違いだ。山に入る前は誰かに行くって一言言っておく。熊撃退スプレーを所持する。わかったか?」
それからは、またぎさんの言葉を忠実に守り山生活を送り。雪が降る季節のたびに、あの日の出来事を思い出して警戒を怠らず、楽しく山生活していました。
今は、全く別の場所に住んでいますが。雪の季節になると、あの黒い背中を思い出します。
ある日、雪山の中。熊さんに出会った話。 シーラ @theira
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