雪だるまの恋☃️🐿️

ほしのしずく

第1話 雪だるまの恋☃️🐿️

 俺は雪だるま。


 目はピーマンで鼻は人参、地元の子供達にシルクハットとマフラーを巻かれたことで命が宿り、五感が備わった。


 五感といっても、近くの音や匂い。


 数メートル先の視界しかないわけだが。 


 それに触れられていることはわかっても、痛みは感じない。


 そんな感じだ。


 何故こうなったのかは、わからないが。


 はっきりしていることがある。


 俺は恋をした。


 この恋が叶わないのはわかっている。


 俺の命はこの冬という季節が終わるまでなのだから。


「クキュッ、キュキュ」


 この可愛く愛しい鳴き声。


 間違いない。


 我が愛しのセリーナ。


 セリーナは野生のリス。


 どういう思いで俺に近づいてくるのかは、雪だるまである俺にはわからないし、理解すら及ばない。


 しかし、雪だるまで動けない俺に触れて近づいてくれる稀有な存在だ。


 だから、俺は恋に落ちた。


 安直だという奴もいるだろう。


 しかし、恋とはそういうものなのだ。と地元のおませな女の子が言っていた。


 名前は覚えてはいないが。


 ともかく、恋は理屈ではないのだ。


「キュ、キュッ」


 セリーナはシルクハットから、俺の鼻に手を伸ばす。

 そしてその小さい手で撫でてくる。


 ふふっ、くすぐったいぞ。セリーナ。


 くしゃみは出ないが勘弁してくれ。


 俺たちは二人の時間を満喫した。



 

 ☆☆☆

 

  


 季節が進み、乾いた冷たい風に混じり、草木が芽吹く匂いが流れてくる。


 そんな季節の変わり目。


 俺の体も少しずつ。


 少しずつだが。


 確実に融けてきている。


 まだ音は微かに聞こえる。


 だが、最近は融けた雪で視界がはっきりしない。


 その上、ピーマンがズレているのかピントがあってもダブって見える。


 今朝、とうとう人参の鼻も地面に落ちてしまった。


 もう、これでは匂いもわからない。


 いつ終わりを迎えてもおかしくない状況だ。


「キュッキュッ」


 この可憐な声はセリーナ。


 しかし、頭の上に乗っている感じはない。


 ということはシルクハットの上ではないな。


 俺は耳を澄ます。


「キュル」


 ああ、地面にいるのか。


 もう雪も融けているし、濡れることもないしな。


 すると、今度は小気味良い音が聞こえた。

 


 ――ポリ、ポリポリ。



 何の音だろうか。


 だが、なぜだか不思議と心が満たされる。


 まるで叶うはずのない恋が叶ったような感覚だ。


 目線をセリーナのいる地面に向けるが。


 もう色味とシルエットぐらいしかわからない。


 尻尾がピンと立ち、栗色でふわふわな毛並み。


 ああ……やはりセリーナだ。


 ん? 何かわからないがオレンジ色の何かを持っている。

 


 ――ポリポリポリ。



 この小気味良い音は何かを食べている音なのか?


 よくは見えないが。


 それだけあればもう冬を越せるな。


 何よりだ。


 愛しきセリーナ。


 長く生きてくれ。

 


 そう願った瞬間。



 ――ザザッ、バサッ。



 俺の体は音を立てて崩れ落ちた。


 そうか。もう本当に冬が明けるんだな。


 俺はただの水になろうとも、この君と過ごした日々を忘れない。


 見上げると太陽の光に照らされたセリーナが見えた。


 ああ……セリーナ。


「キュッキュッ」


 そして、その顔が近づいたと思ったら俺の意識は途絶えた。



 キュッキュッ♪

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雪だるまの恋☃️🐿️ ほしのしずく @hosinosizuku0723

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