次の恋は突然に
私の告白連敗記録は、もはや芸の域に達していた。
「朝霧、またしても連敗記録更新」
「もうこれ成功失敗だと皆失敗に賭けるから賭けにならん」
「じゃあ何週間でフラれるか」
男子は堂々と人の恋路を賭けの対象にしていたので、私は「ウギャー!」と叫ぶ。
「こらー、男子! 人の恋路を笑うんじゃない!」
「いや。なんでこうも高嶺の花にばっかり突撃して失敗するのかマジでわからんと思うし」
「なんだとぉ、好きになった相手がたまたますごい人だったのであって、登れない山に登りに行ってる訳じゃないぞぉ。なら君たち私と付き合ってくれるのかね?」
「いや、朝霧は面白い奴だが、彼女にするのは無理」
「うん、なんというか、頭が悪過ぎて全面的に駄目」
「あざといのは好きだが、朝霧はなんか違う」
「ムキィ、なんだぁ、お前らやんのかぁ」
「やめて未亜ちゃん、これ以上恥の上塗りをしないで!?」
奈美子ちゃんに思いっきり羽交い締めにされつつ、私はジタバタジタバタとしていた。
人の恋路を笑うんじゃない。私もさすがに何度も何度もフラれ続けると、だんだん気分はラジオのはがき職人とか、公募戦士とかに似てくる。次行け次で気分の切り替えが早くなってくるんだ。
まあ、傷だらけなのは変わりないけどな! ははっ!
そうこう言っている間にお昼休みの時間になった。うちの学校は購買部でお弁当やパンを買うか、食堂で食べるか、自宅からお弁当を持ってくるかになっているけれど。その日の購買部は週に一度の焼きそばパンデーのせいで、とてもじゃないけれど購買部に近付くことすらできなかった。
「今日は駄目そうだねえ、食堂行こうか」
「そだねえ……焼きそばパン食べたかったなあ」
うちの学校の食堂は、なんでか知らないけどあまりにもおいしくない。
なんの肉なのかわからない投げやりな肉の入ったカレー。衣は付いていても味が全くしない唐揚げ。油が回り過ぎてふた口食べたらもうギブアップしてしまう炒飯。お腹いっぱいになる以外に取り立てて栄養がなさそうでおいしくないメニューばかりが並んでいる。
でもなにも食べずにお腹を空かせたまま午後の授業を受ける訳にも行かず、私たちは食堂に移動しようとしたとき。奈美子ちゃんは「あれ?」とスカートのポケットの位置を叩いた。
「あれ。財布教室に置いてきたっぽい」
「あらまあ。なら席を取っとくよ」
「ごめんね! すぐ戻るから!」
慌てて教室にUターンしていく奈美子ちゃんを見送りながら、私は食堂へと向かう。食堂に来ている子たちの大半は、購買部でのパン買い競争に負けた敗北者たちだ。「焼きそばパン……」と呻き声を上げながら食堂に向かっているのを眺めていたら、「ニャーン」という声を耳にした。
「あれ、猫?」
うちの学校の校庭は、どうも近所の猫の散歩コースになっているらしく、ときどき猫が鳴いているのを耳にする。地域猫らしくて、ご近所さんがどうにか保護しようとしているらしいけれど、なかなか上手く行ってないとか。
どこで猫が鳴いてるのかなと思ったら、木の上でニャーニャーと子猫が鳴いていた。どうも登ったのはいいけれど、降りられなくなったらしい。
私がキョロキョロすると、親猫は心配そうにうろうろしているものの、中途半端な高さのせいで、子猫を咥えて降りることもできないらしく、オロオロして「ナォーン」と鳴いている。
私がオロオロしていたら「ちょっと失礼。これ持ってくれないか?」といきなり上着を渡された。私は「はい?」という前に、ひとりの私服の男子が「おいしょ」と木に登りはじめたのだ。
背は高く、薄手のフード付きのシャツにデニムとラフ過ぎる格好なのに、スタイルのよさが際立って見える。髪は短めで、精悍な印象だ。
「よっと。もう大丈夫だ」
「ニャーン」
子猫を大人しく抱っこすると、フードの中に入れてもう一度スルスルと木から下りると、「はい」と子猫を親猫に渡した。
渡した瞬間、親猫は子猫の首根っこを咥えると、すたこらさっさと走って行ってしまった。それに男子は手を振っていた。
「今度は目を離さないようになあ!」
「ふわ……」
私が一部始終見ていたのを確認した男子は、はにかんで笑った。
「すまなかったな、上着を持ってもらって!」
「いえ……で、でも……私服?」
「あー、さっきまで職員室に行ってたんだ。明日から転校してくるから」
「あれ?」
既に新学期から外れているし、季節外れの転校生? 私がポカンとしている中、私の返した上着をするっと着る。ライダースジャケットはデニムと合わさると、ひどく様になっていた。そのままスチャッと手を挙げる。
「それじゃあな!」
「ええっと、はい……」
私はその姿をしばらく見送っていた。身長は私より頭ひとつ分高かったなと思いながら。そうこうしている内に、奈美子ちゃんが走って戻ってきた。
「お待たせー! あれ、食堂に行ってなかったの?」
「……ヒーローだった」
「どうしたの、未亜ちゃん」
「ヒーローだった。困ってる子猫を助けるためにスルスルッて木に登って降りて、さわやかに名前も告げずに去って行くって」
「未亜ちゃん? 未亜ちゃん?」
「……カッコよかった」
あからさまに奈美子ちゃんは「またか」と引き気味の顔で見ていたものの、私はポヤァと手を組んで既に見えなくなった彼の背中を想像していた。
誰かはわからないけれど、素敵な人だった!
昨日失恋したばかりの私は、もう次の恋に走りはじめていた。
突撃以外知らない私の恋はやっぱり突撃しか知らない 石田空 @soraisida
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