「雪」ってお題で〝作文〟するんだけど。

卯月 幾哉

第二の故郷〜美しき雪の町〜

「お父さん」

「なんだい? まだ雪がまってるから、捨てに行かなきゃ」

「私もついて行っていい?」

「そりゃ、構わないよ」


「――お父さんって、生まれ育ちは九州なんだよね?」

「うん。去年の正月に、お前も連れて行っただろう?」

「もちろん覚えてるよ。あのね、いま『雪』ってお題で作文を書いてて」

「作文? 冬休みの宿題?」

「ま、まあ、そんなとこかな。四百字以上、一万字以内なの」

「……ずいぶん幅があるんだな」

「と、とにかく! それで雪国に婿むこ入りしたお父さんに話を聞こうと思って」

「何を話せばいいんだい?」

「なんでもいいけど。雪国に来て苦労したこととか、逆に良かったこととか。――転生したら雪国だった件とか」

「……最後のおかしくない?」

「そこはスルーで!」

「……なるほど。――そうだなぁ。お父さんは生まれは九州だけど、東京の大学に進んだからな。お母さんと結婚するまで、長らく東京で暮らしてたんだよ」

「え! そうだったの?」

「ああ。話したことなかったっけ? 大学を出た後の就職先も東京でね。自由気ままな一人暮らしを満喫まんきつしてたんだ。……まあ、その辺の詳しい話は置いとこうか。」

「東京の話、気になる〜」

「また今度な。――だからこっちに来るときは、覚悟は必要だったかな。車の免許は持ってたけど、ペーパードライバーだったからタイヤを交換することもなかったし、雪下ろしもやったことなかったからなぁ」

「今じゃ、どっちもふつうにやってるよね」

「もう慣れたよ。やっぱり、最初の一年が一番大変だったかな。こっちに知り合いらしい知り合いもいなかったからさ。……ある意味、ちょっとした異世界転移みたいなものかな? おじいちゃんおばあちゃんには、たくさんお世話になったよ」

「……なるほど。そうやって外堀そとぼりめられたと……」

「何か言ったかい?」

「ううん。なんでもない」

「……まあ、いいか。ともあれ、やっぱりして来て一番厄介やっかいだったのは、この雪だねぇ」

「やっぱり?」

「うん。話には聞いてたけど、体験すると大違いでね。『雪かきや雪下ろししてるこの時間があれば、他のアレやコレができるのに』って、最初の頃はよく思った」

「そうなんだ。確かに、今までやってなかったことをやるのは大変だよね」

「そういうことだね」


「――最後に質問。生まれ故郷の九州と、いま住んでる雪国。どっちが好き?」

「……いい質問だね。そうだなぁ。どっちも好きだけど、『好き』の種類が違う感じかな」

「『好き』の種類が違う?」

「うん。九州の方は、帰るととてもなつかしい気持ちになる。子供の頃の思い出があるし、昔、同じ時間を過ごした家族や友人がいるからね」

「それはそうだよね」

「この町にはもちろん、そんな思い出は最初はなかったんだけど、たまに旅行とかで遠くに行った後で帰って来ると、だんだん『故郷』って感じるようになった気がするよ」

「へぇ、なるほど〜」

「『故郷』って意味では両方同じだけど、でもそこにはちゃんと違いがあるんだ」

「ん〜。なんかややこしいかも……」

「こう言えばわかるかな? 九州は僕が生まれ育った『故郷』で、この町はお母さんとお前と一緒に暮らしてる『故郷』」

「あっ! それならわかる!」

「良かった。……まあ、雪には苦労もさせられるけどね。どっちかというと、ぼくは雪が好きみたいなんだ」

「そうなの?」

「うん。長い冬の間、真っ白に染まった町並みを何度も見てる内にね、自然とそんな風に感じるようになったかな」

「へぇ、そうなんだ〜。なんだか詩的だね」

「そうかな? 冬晴れの日なんか、もう景色が最高だよね」

「……雪なんて、生まれたときからあるのが当たり前だったから、そんな風に思ったことなかったかも! ねぇ、次はいつ晴れるかな?」

「さあ……。予報では、しばらくくもりか雪だったかなぁ。――それで、宿題はなんとかなりそう?」

「うん。なんとか応募の期限に間に合いそう」

「応募……?」

「気にしないで」

「そ、そうかい……。――じゃあ、雪も全部捨て終わったし、うちに帰ろうか。行こう、美雪みゆき

「はーい」



(END)

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「雪」ってお題で〝作文〟するんだけど。 卯月 幾哉 @uduki-ikuya

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