第3話 ドジっ子皇女と結婚

「父さん??!!」


 会場の扉を開けるだけで、扉が壊れそうな威力があり、堂々と俺たちの方に向かう男性は、すみれの……いや、アイビー様の父さん、アルヴィン・アジュール様だ。


「え? オランダにいたんじゃないの?」


 アルヴィン様は男の覇気はきが満ち溢れるぐらい、体格のいいイケメンだ。アイビーと同じ金髪で碧眼へきがんを持っていて、百九十ある身長は場を唖然あぜんとさせる。

 俺は彼が登場した瞬間まじで一瞬彼の覇気に殺されると思った。


 こんな野蛮やばんな登場の仕方に腹が立ったアイビーは彼の方に行き、両手を広げ、不満をアルヴィンにかます。


「父さん!! もっと登場の仕方ってやつを学んでよぉ!」


 すると、アルヴィンは彼女の耳に近づき、小声で何かを相談している。


「アルヴィン様……これは僕とむすめさんの結婚式です……どうか……」


「残念だったよ、アイビー、こんな貧弱そうな日本人を好きになるなんて」


「え? 父さん?」


 空気が一瞬止まったが、その後会場に響く大きなピンタの音が蔓延まんえんする。


「あぁ!!!」


「すみれちゃん!!!!!!」


 彼は自分の娘に対して、全力のピンタをしたのだ、彼女は地面に倒れ、赤くなった頬を抱えた。

「父さん、なんでぇ?」


 俺はすぐに彼女に駆けつけ、彼女を優しく抱きしめた。この一瞬、俺は自分が怒られるよりも悲しい気持ちになった。


「あいつから離れろ、日本人」


「嫌です! 彼女は僕の大切な人なんです!」



 すると、アルヴィンは俺に近づけ、さっきのピンタ音に負けないぐらいの力が、俺の頬を痛ませる。俺は一メートルほど飛んでいった。


 さすがアルヴィン様……なんて言えねぇよ、こんな人がどうやってあんな優しい“すみれちゃん”を生んだかがわからねぇよ。


「秋歌くん!!!!!!」


「忠告したはずだ、弱っちぃ日本人は我がオランダ皇室の皇女に相応ふさわしくない」


 俺は叩かれて泣きそうになった、しかしそれよりも、俺は俺のために泣いているすみれちゃんの姿を見ることが一番悲しい。


「しゅうかくぅん……!!!!」


 彼女が俺のために泣き叫んでいる姿は本当に悲しい。


「お前もだ、アイビー、お前みたいなゴミを産んだことを後悔したよ!」


 彼女は震えている泣き声でアルヴィンにお願いをした。


「父さん!! お願いだから! なんでもする! 秋歌くんだけはもうやめてぇ!」


「黙れゴミ、こいつはオランダ皇女と結婚するという罪をおかしている」


 俺はこの一瞬、悲しみという感情以外に、怒り、憎しみに纏まれ、体内のアドレナリンがどんどん分泌し、心拍数が急増している。


「おい……」

「は?」


「今……すみれちゃんになんて“言った”?」


 俺は自分がなにをしているかわからない、でも俺の脳は全身に唯一の命令を伝えた。





 こいつを殺せ。





「“親子喧嘩”だよ、アルヴィン義父さん」


「なにを言ってんだ、日本人」


 アルヴィンは俺の行動に苛立ったため、すぐに俺に近づき、もう一回ピンタしようとしたが、俺はその手を避け、彼の顔面に一発殴った。


 俺は喧嘩はしたことないが、過去にボクシングを趣味でやってたため、決して弱いパンチではないと思う。


 アルヴィンは突然のパンチに耐えられず、地面に倒れた。


「あんた……すみれちゃんにあんな酷いことを言ったな……俺も考えたんだよ、お前の“あだ名”を」


「クソ日本人……」


「黙れ、カス」


「は?」


 そう囁いたのはアルヴィンだけではない、会場にいる人、神父、そしてすみれちゃん、全員の人は俺の発言に唖然となった。


「立てよ……カス」


 すると、アルヴィンはなんともなかったようにゆっくりと立ち上がった。それを見た俺は少し恐怖を感じてしまった。


「秋歌……とかいう日本人だっけ?」


 彼の低音かつ覇気ある声は、俺の細胞まで震えてしまう、怒りは一瞬で消えた、残るは恐怖、しかし俺はすみれちゃんを守らなければならない。


 彼はゆっくりと俺に近づき、俺は降参こうさんせずに姿勢を構えた。

 すると、彼はゆっくりと両手を広げた。


 俺は目を閉じた、諦めたんだ、俺の全力を無傷にできる化け物なんか勝てるわけがないからだ。

 ファンタジーアニメみたいに能力とか使えねぇよ。


 すると、俺の体全体は優しく抱きしめられた、いや、優しいけど、ちょっと痛い……。


「かっこいいじゃーん!! お前のこと認めた!! かっこいい息子ができて嬉しいよ!」



「……」


「は?」


 すると、俺を抱きしめたアルヴィンは、俺を離し、滑稽こっけいな声で言った。


「『ドッキリ、大成功!!』ってやつだ!」


「どういうことだよ、おい、すみれ……ちゃん?」


 彼女は顔を赤らめて怒った様子をアルヴィンに見せた。

「父さん! いくら『度胸を試す』とはいえ、秋歌くんに傷つけることはするなって言ったよね?!」


「ごめんごめん! つい興奮してさぁ!」


「……」



 え? 俺って怒っていいよね?


「あらま! くんなんか気分が悪そうだね? 大丈夫?」


「“しゅうか”です……」


 結婚式は一時彼のせいで止まったが、その後無事に再開でき、彼は謝るために、できるだけ場を盛り上げ、結果オーライで楽しく結婚式を終えることができた。


 俺はすみれちゃんと一緒に帰り、家に着くと、彼女はすぐ俺のことを抱きしめた。

 彼女は結婚式で酒を飲んだため、言葉とその大きい体がふらふらしてて可愛い。


「しゅーかきゅん!! 今日から自由にやれるね!」


「『やれる』? なにをぉ??」


 さすがに俺も男だ、彼女のその言葉に俺は少し恥ずかしくなった。

 彼女は頭を傾き、当たり前のように俺に言った。


「うん? それはもちろんゲームとか? お絵描きとか? 遊んだり?」


 すみれちゃんを期待してた俺がバカだった。



 すると、彼女は突然俺を体全体で押してきて、俺たちはベッドの上に倒れた、彼女は俺と同じ身長だから、体重もほぼ変わらない、俺は女性に押し負けた。


 すみれちゃんの薄々と出てくる酒の匂いと、熱い体温、柔らかい体が俺の体全身を刺激してくれる。

 不気味な笑顔で俺を見つめて言った。


「秋歌くんは一生私のそばにいてね!」


「すすす……すみれちゃん?!」



「……」



「へへ! びっくりしちゃったぁ? アホみたいだよぉ〜」


「しね」


 でも本当に一瞬びっくりした、彼女の笑顔が普段通りに戻ってよかったー! っと俺は安心した。


 これが、俺とドジっ子皇女との同居生活の始まりだ。

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幼馴染のドジっ子皇女を家に連れて帰って結婚しちゃった。 雪方ハヤ @fengAsensei

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