タン、タン、タン。

白川津 中々

◾️

旅立ちの朝を迎えた。


両親がまだ眠っている時間、そろりと部屋を出る。手持ちの現金は五万円。口座に十万円。バイトで稼いだ使い道のない金。これを持って俺は今日、家出をする。


理由はとくにない。ただ毎日学校に行って、帰ってきてを繰り返すのが嫌になっただけ。若さ故の衝動といえばそれまでだけれど、その衝動を押さえ込んでしまったら、いつの間にか歳を重ねてきっと後悔しそうだったから、俺は家を出るのだ。


玄関を開け、外へ。

まだ日の昇りきっていない濃紺色の空には星の名残がちらほらと散らばっている。これが青一色になる頃、俺はどこにいるのだろう。きっと、知らない土地で空を見上げているはずだ。


一歩踏み出す。

硬いアスファルトがタンと鳴る。

どこに向かうわけでもないこの一歩。どこかに辿り着くこの一歩。この一歩が、俺の若さの象徴だ。


タン、タン、タン。


行こう。どこかへ。どこへなりとも。


タン、タン、タン。


タン、タン、タン。

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