死の組に入った小説

ブロッコリー展

🏆


──ついてない。死のくみだ……。


あろうことか、僕が応募した渾身の小説はとんでもないグループに入ってしまった。


インターネットでの組み合わせ抽選会の中継を観ながら僕は頭を抱えた。


出版不況はついにここまで文学賞のシステムを進化させた。


それは従来の選考方法とはまるで違い、作品同士を1対1で直接戦わせていく方式のものだ。


本来なら一次審査あたりとなるグループステージから始まる。だからこれは、そのグループ分けでの一コマというわけなのだ。


もう一度確定した組分けを見てみる。


── グループD


死の組……。僕以外は全員プロの作家たちだ。


素人は僕一人。ちゃんとポッド分けがあったはずなのに、なぜに一人だけ混ぜるねん。


主催者側の説明では“あえて死の組とかあったほうが盛り上がんじゃね”ということらしい。


僕は完全に盛り下がっている。


しかしながら、このグループを1位通過しなければその先はない。


ただそれまでの僕も安閑と日々を消していたわけではない。一応そんなこともあろうかと、自分の小説を守備重視なものに仕上げてあった。


おそらくプロとの対戦は一方的な展開となるだろう。文学&スポーツ各紙(?)の戦前の予想も僕の勝ちを予想するものはほとんどない。


それらをよそめにして、暖炉の火の元、僕はただひたすらエンピツを丁寧に削ったりして気分を高めながら開幕のときを待った。


そして日本時間の普通の時間、文学賞が開幕。


僕の小説の入ったグループDも文字数制限いっぱいまで詰めかけたサポーターのもと、


総当たりのグループステージが始まった。


言っておくが、


小説と小説をガチンコで戦わせてもけっこう地味だ。


ゲーム展開に特筆すべき点もない。


日程を消化していくうちに波乱が起こっていることに気づいた。


僕の小説は連日プロ作家の作品相手にジャイキリを重ねて快進撃を続けていた。


プロ作家はプロ同士の評価に慣れすぎてしまっていて、守りを固めまくった僕みたいなど素人の文学作品を崩すことに慣れてないみたいだった。


ラッキー✌️


しかも僕の作品が秘めていた、素人ならではの、ルールにまったくとらわれない表現方法からのカウンター攻撃が見事にハマったのだ。


ちょーラッキー✌️✌️


最終的にはフィールド上で理論的支柱となって、なんと、奇跡のグループステージ突破!ベスト16へ進出だ。


ここからはノックアウト方式の決勝トーナメントで文学賞の大賞を争う。


僕にとってはもちろん未知の領域だ。


最新の作家世界ランキングでも僕はほんの少しランクアップしたらしい。誰がまとめてるんだろう。


そして対戦相手が決まる。


── またまたついてない。


ベスト8を賭けた決勝トーナメントの最初の相手は、日本作家ランキングのトップ5に入る文豪やんけ……。おわた。


とにかく胸を借りるつもりで挑んでいきますですたい。


ちなみに、決勝トーナメント前に一度自分の作品の手直しが許されている。


ロッカールームにて、さっそく手直しにかかる。でも経験の足りない僕はなにをして良いかわからない。


一方の文豪は名編集部などに囲まれていてどんどん改稿していっているみたいだ。ずりー。


僕も削りたての鉛筆をコロコロ転がしてみたりして足掻いてみる。


藤井フミヤのTRUE LOVEのあのイントロは弾き間違えから生まれたんだそうだ。


落ちた鉛筆を拾う。そしてタイムアップ。


眩しすぎて


目を閉じても


浮かんでくるよ


僕の敗戦が、ね。


僕は自分の小説に声をかけてから、送り出した。


観客席では暴徒化した一部の読者が発煙筒を焚いている。小説は紙でできてるから全くもって危険だ。


試合が始まる。


互いに目次で牽制し合う流れの中でピンチでこちら側が退場者を出してしまう。


数十ページ少ない状態で戦わなければならなくなり数的不利に。


それでも手に汗握る展開のまま最後まで決着がつかずにPK戦(?)へ。


PKはシンプルに作家本人が蹴るという、謎のほぼ愚挙ルール。


物書き同士がPK合戦してなにか有益なことがあるだろうか。


5人目の僕が蹴ったなにかが大きく何かを外れた。


── 負けたのだ。


悲願のベスト8の夢は散った。


うずくまって起き上がれないでいる僕に僕の書いた小説が「ナイスファイト」と手を差し伸べて起こしてくれた。


そうなのだ。いつまでも落ち込んではいられない。


今のこの瞬間から、来年の文学賞への闘いが始まっているのだから!








                      終

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