第四話
前話 詩さん
◇◆◇
そして迎えたクリスマスイブ。私はいつものようにバイトに来ていた。
別にイルミネーションが見れなくても……一緒に見る人がいなくても、このキラキラと輝くアクセサリーに囲まれているだけでなんだか幸せな気分になる。
宝石がたくさん入ったショーケースに汚れがつかないように丁寧にマイクロファイバーの布巾で拭く。
ふと、店の外を見てみるとそこには腕を組んだりしていて楽しそうなカップルがたくさんいた。
ああ、きっと二人で駅前のイルミネーションでも見に行くんだろうなぁ。
誰のぬくもりも享受できない自分の右手がやけに冷たく感じた。
いいもん、私はここで過ごしているのが幸せなんだから。
そう自分に言い聞かせる。
カラン
ドアが開いた。お客さんだ。よし、ここはクリスマスだからと言って高いアクセサリーを売りつけちゃうぞ!
中に入ってきた若い……二〇代くらいのカップルは楽しそうに目を輝かせてアクセサリーを見ていた。
「何か、お探しですか? 」
とびっきりの営業スマイルで話しかける。
「ああ、愛花の……彼女のプレゼントを探して」
「彼が私にプレゼントを買ってくれるんです!」
「ご要望とかありますか? 」
すると女性の方が私に寄ってきて耳打ちした。
「なんか私のプレゼントを買ってくれるらしいんですけど、彼とペアルックにしたくて……彼もつけやすいようなシンプルなもの……ブレスレットとかありますか? 」
うわぁ〜ラブラブだ〜そうと決まればあれしかない!
「でしたらこちらへご案内します」
私は私がいつか欲しいと思っていたシルバーとピンクシルバーのブレスレット……
倉岡さんに言われた言葉。『誰かのささやかな道しるべになる。それが俺たちの仕事だ』が頭の中でこだまする。
道しるべ……か。私、この人たちの道しるべになれてるかな。
ふと、倉岡は今日フリーだということに気づいた。倉岡さんも彼女いるのかな……
「いいんじゃないか? 愛花、こういうの好きだろ」
「じゃあこれでお願いします! 」
「かしこまりましたそれでは腕の周りの長さを測らせてもらいますね」
そして、彼女がペアを買うと言っていたので、
「彼氏さんも腕の周りの長さ測りませんか? 測って、ここのメンバーズ会員に登録してもらうと全品五パーセントオフとなりますがどういたしましょうか」
「じゃあお願いします」
会員登録すると五パーセントオフになるのは本当だ。でも腕の長さを測らないと会員登録できないわけではない。
そして、こっそりと彼女の方に耳打ちする。
「マフラーをここに忘れていって、一人で戻ってきてくださいね」
彼女は驚いた顔をしていたが、しっかりと頷いてくれた。
「では、お会計ですね。五パーセント割引で九二〇五円となります」
そして会計を済ませて、包装係の人にしっかりとクリスマスプレゼント用に包んでもらって手渡しする。
「お買い上げありがとうございます」
二人は手を繋いで嬉しそうに出ていった。さっきショーケースの上にマフラーを置いて。
しばらくすると彼女のほうが一人で帰ってきた。
「お待ちしていました。こちらですね」
そう言って、さっきのシルバーの方のブレスレット……彼氏の腕のサイズに合っているものをを差し出す。
そして会計をすぐに済ませて送り出す。
「良いクリスマスを」
彼女は本当に嬉しそうだった。プレゼント交換? 成功してくれるといいな。
その後も淡々とお客さんの対応をしていった。どのお客さんもみんな笑顔になっていく。
私もこんな感じで彼氏と一緒に歩きたいなぁ。
もう、辺りが暗くなってきた。寂しくないと思っていてもちょっと寂しい。
包装係の人お姉さんとあれこれ雑談をしながら時間を過ごす。
すると乱暴にドアが開けられ、そこには息を切らしている倉岡さんがいた。
◇◆◇
第五話はこちら
桜田実里
https://kakuyomu.jp/works/16818093090933341388/episodes/16818093090933389643
幸せの道しるべ 功琉偉つばさ @WGS所属 @Wing961
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