現代おトぎ
外レ籤あみだ
ともだちなるもの
では想像を膨らませよ。
ふたりの青年が、長い道ばたを歩いている。ひとりはとても快活に話し、もうひとりはこれをむすっと不満げに聞いて歩いている。
よくある友情の図といえる。
さてあるところでふっと立ち止まる。
むすっとしていたほうが訊く。
「お前だれだよ」
「え?」
快活なほうは快活なまま、またまたご冗談という親しみ。
「おいおい、いきなり記憶喪失って、いいボケ持っているな。ボケだけに」
「いや、ボケてないし、つまらないし、知らない奴から言われているからこえぇよ」
「なに言ってんだよ、俺たち友達だろう?」
肩を組んでくる。
ますます仲の良い図だけができる。
中身の友情は抜けているというか端から無い。
組んでくる手を叩き落とす。
「出会って三分間で、なんでそこまで友達面できるんだよ!」
「インスタントフレンドだな!」
「うるせぇよ! コンスタントに他人だよ! コンスタント他人だよ」
「めっちゃ上手いなお前! え、今のってどうやって思いついたの? 才能? 努力? 親の権力? すげぇえ!」
コンスタント他人はブラボーの拍手。
「めんどくせぇ……あんましつこいと警察につきだすぞ!」
「そう怒んなってインスタント他人」
「他人のくせにいじってくんなよ!」
また肩にのってくる手を払いのける。
「やっぱ人の上手いこと言ったのを、小馬鹿にできるのも友達特権だよな!」
またまた肩に手、払いのける。
「だから友達じゃないだろうが!」
「え? つまり?」
「なにが?」
「つまり、つまり?」
なにかを要求する瞳の輝きと、くれくれという手の仕草。ほんとうにくれてやろうかな、拳を。と知らない友人に付きまとわれる青年は思う。
「いやだからつまりよ?」
「だからなんだよ!」
「ほら、コ、コ、コン?」
「その小出し止めろ!」
聞きたそうな耳をつきだしてくるのを突っかえす。
なお耳は出てくる。
「コ、コ、コン、コン……タ?」
「タってなんだよ! スじゃねぇのかよ!」
「コンタクトフレン……」
「ド?」
「ぶぶぶぶぶぅううう!」
腕を胸の前で交差させバツマーク、そのうえで顎を突き出した馬鹿にした顔。
「正解はコンタクトフレンズでしたー。ズですよ、ズ! ズズズのズ」
ラーメンを啜る所作をやってきたあと。
「しかもさ、しかもさ、これなんととんでもない仕掛けだ! フを言わないでみろよ!」
「なんだよ」舌打ちしながらも促されるまま、「コンタクトレンズ……」
知らない友人は手拍子ひとつ、腹を抱えて哄笑。
それへ怒り一層倍。
「なにが面白れぇんだよ!」
「だって、お前! コンタクトレンズだぞ! あ……ってかお前……」
するとこんどは、知らない友人は青年へにじり寄って、その目をじっくり見つめてから半笑いで指さし、
「もしかして……え? 嘘? お前って……」
「なんだよ?」
「コ、コ、コンタクトしてる?」
「だからなんだよ!」
知らない友人、照れくさく笑って、
「パクんなよぉ」
「パクってねぇんだよ!」
握手を求めてくる。
すぐ叩き落とす。
「なんで握手しようとすんだよ!」
するとさすがの知らない友人も、むっすとなる。道ばたの小石をつまらなくなった子どもっぽく蹴る。
「わかったよ……」
「なにがわかったんだよ」
「お前が、照れて俺と友達って認められない気持ち」
「……まじでなにがわかったんだんよ!」
「いや、だいじょうぶ」
「ずっと、なにもかも大丈夫じゃねぇんだよ」
「こういうのは第三者からわからせられたほうがいいんだ」
「はぁ?」
「ちょっとそこのお嬢さん」
知らない友人は、たまたま路肩を歩いていた清楚肌な美女を連れてくる。
「なんですか?」
愛くるしい小首を疑問に傾ける。
「こいつが」と肩に手を乗っけてくるのですぐ叩き落す。「ほら、俺のこと友達じゃないって言ってくるんですよ?」
「だから友達じゃないんだって!」
美人は丸く大きかった瞳を木漏れ日のように細めて、
「ふふふ、仲が良いんですね」
「ほら、第三者すら認めたぞ! 公認だよ! 公認! 公認の友達だよ」
「さっきから知らねぇ奴なんだよ! どいつもこいつも!」
「あぁ、巷で流行りの公式が勝手に言ってるだけってやつ?」
「非公式が勝手に言ってるだけなんだよ! だいたいもうだいぶ前だろ!」
「でもほら」美女の微笑み、「喧嘩するほど仲が良い」
「そうだよねぇえ。存分に喧嘩してこそ友達みたいなね!」
青年はまったく理解されないのに、脅しの拳を顔の横で構える。
「お前ら他人でもぶん殴るぞ!」
この暴挙に、知らない友人と美女は和やかに笑い合い。
「あら仲が良い!」
「あちゃあ、また僕らのお熱いところ見せちゃったなー」
「みちゃいましたー」
「うぜぇ」と青年が愚痴れば、美女が恥ずかし気に手を取ってくる。
「え? なに?」
青年が訊けば、仄かに赤くなった顔で上目遣い。
心のなかがどぎまぎして青年は目の逸らす。
「さっき私も殴ろうとしてましたよねぇ」
「い、いえ……そんなさすがに女性を殴るなんて……」
「え? じゃあ私て友達にはなれないんですか?」
落ち込んだ美女の伏し目がちな魅惑を、青年は横目でちらちら様子見しつつ、
「いぃぃいいいや、そんなことないんじゃないかなぁ!」
「でも私を殴ろうとはしてなかったんですよねぇ?」
「いいぃいいいや! めっちゃ殴ろうとしてました!」
彼女の顔が一転、花の咲く。
「そうなんですね!」ほっと胸をなでおろす。「よかった……てっきり仲間外れかなって、殴る価値もないかなって、寂しくて、自信もなくしかけてました」
「だいじょうぶ! どんなことがあっても俺が君の顔を殴りたい気持ちに、変わりはないよ!」
握られた手を握り返し、青年、背筋伸ばしてとてもはきはきとしている。
「やだなぁ、それじゃあまるで友人っているより、恋人みたいじゃないですか?」
ふとお互い、手を離し目を逸らし恥ずかしそうな様相。
このあいだで知らない友人が、ふたりを観察して不満げ。
「え? なにこれ? なあ! 俺ら友達だよね!」
快活ぶって訊くが、青年は知らない友人を無いものとしてラブロマンスを続行。
「いや、ちがうんだ! 僕は決してそんなつもりじゃあ!」
「なに、その言葉づかい! 心ひっくり返った? 俺が話しかけたときってもっと……」
「なにが違うって言うんですか?」
「お姉さん、なんで乗り気? というかなんで俺がひとりスタートしたのに、そっちがゴールテープ切りそうなの?」
「いいや、もうすこし君を知ってからのほうが……」
「君ってだれだよ! 俺のときにした扱いを思い出せよ! コンスタント他人!」
知らない友人は、ラブロマンスなふたりのあいだにでんと立つ。
が、引き戸を開ける要領で情熱あふれる青年に退けられる。
「あぁ、だから知ろうと思う!」
「あぁ、本当ですか?」
手をつなぎあうふたり。
しかし美女は突き放して、胸を悲痛に手でおさえる。
「でも私なんて……あなたにまだ一度も殴られてもいない」
男は彼女の肩を持ち、自身に向かせる。
ふたり柔和かつ陶酔の眼差しで見つめ合う。
「これから一緒にいれば、きっと作っていけるさ。愛の青あざを」
困惑のまばたきをさせ、成り行きをみつめる知らない友人。
「もうミュージカルだよ……てかなんだよ、愛の青あざって、それただの暴力だからね」
「もっと時間をかけて、きっと殴られるにたる友人になる、そしていつかはもっと深いものに……」
「めちゃくちゃ歪な関係だと思うけどね」
「なに、そう時間はかからないさ。なんせ、たった三分でもう友達、インスタントフレンドになれたんだから」
「あ、パクった……お前、ここまでぜんぶ俺のおかげだからな!」
そうしてここに新たな男女が友情の歩みをはじめた。
そしてたったひとり道ばたに残された知らない友人。
彼はその場に膝を抱えて屈みこみ、寂しい溜息を吐くと、
「あぁ、また友達になれなかったなぁ……もしかして俺って友達の作り方まちがってんのかなぁ……」
だが彼はあきらめないために立ちあがった。
「いや、相手が大人ってのがいけないんだ。変に疑ってくるしな。よしこんどは今回の教訓をかてに思い切って、かけ離れた年齢層にチャレンジしてみよう!」
その後、彼は、男児暴行未遂の罪で捕まった。
また刑務所のなかでは、その誰にでもフレンドリーな性格から多くの友人を得た。
そして彼がのちに、世界の裏社会を牛耳る男になるのはまた別の話。
この想像はこれにて萎む。
次の更新予定
2024年12月25日 18:00
現代おトぎ 外レ籤あみだ @hazurekujiamida
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