パパ上様日記 ~とあるある日の一風景~

ともはっと

 


「雪……かぁ……」


とある日。


空からしとしとと天の涙のように降っていた雨は止み、代わりにふわふわとゆっくりと天井から舞い降りてくる妖精かのような、真っ白い小さな塊が落ちてきた。

見上げると一面妖精たちの群れ。

じっと立ち止まって見上げていると、私の体にもその妖精たちは降り積もって私を白く染めていく。


こういった雪の表現は、確かわた雪というのだっただろうか。

太宰治が表現した七つの雪の表現の一つだったと思う。


なるほど。

見れば確かに真っ白いわたが降りてくるようだ。


空から誰かがわたを落としているのかと思うと、少しだけ頬が緩んでしまう。




「こういうのを見てると、あの日を思い出すな」




周りに誰かいるわけでもない。

だから誰かに問いかけたわけでも、聞かせたかったわけでもない。

その言葉は、ただただ自然に口から出た、私の想いだ。


手のひらを広げてみると、そこにぽとりと落ちてはじわりと小さな冷たさを感じさせるその雪の儚さに、あの頃を思い出す。



















何年も前。

世間は春。春にも関わらず、時折狂ったかのように豪雪となるその田舎町。


チェーンやスタッドレスから履き替えるべき車も、そんなことがあるからスタッドレス標準装備、みたいな。

6月頃にならないと安心できないその冬の名残は、この時も襲い掛かってきていた。


毎日、朝起きたら寒さに凍えるところから始まり、その寒さは、雪かきという朝早く起きて重労働するというお知らせである。



外に出ると、春の陽気。

だけども、目の前は白銀の世界である。


ぽたぽたと落ちるツララの冷たい水。

玄関前はまさに大粒の水滴の大合唱。宝石のように春の陽気を受けて輝くツララの表面をスケートリンクのように滑り落ちていく水滴。ぽちゃんっと音を立てて地面へと落下していき小さな水の王冠を作って消えていくその水は、やがて降り積もった雪を溶かして水となって流れ消えていく。

もっとも、その直前の雪を溶かしているときのべちゃべちゃ雪は、靴はびちゃびちゃにするので好ましくはないのだけども。好ましいところと言えば、アイスバーンではないので滑りにくい、というか滑らないことってことくらいかな。





それはあくまで、実家の時の話。


そんな今日は、いつもと違う場所での目覚めである。

いつもと違う田舎で違う場所で目覚めた私が出た先に広がるのは、白銀の世界ではあるものの、桜並木の道である。


雪化粧をした桜の木と重さと寒さに負けそうになりつつも健気に咲き誇る桜の花弁。

その花弁が、儚く数枚の花弁を散らせる様を見た。


それは雪国特有の冷たい風に吹かれ、上へ下へと弄ばれつつ地面へ落ちていく。

まるで風と踊っているかのように。


そんな桜の木の下で、一人の女性が立っていた。

舞い散る桜を受け止めようとしているのか、手のひらを差し出した先に、ほろりと落ちる一枚の花弁。

その花弁を落とした木の下で、まだ上空に咲き誇る花々を見上げて仄かに微笑む女性。


ふらふらとその女性を起点としているかのように桜の花弁とわた雪が降り落ちる光景は、とても幻想的だった。


思わず、その光景を、じっと。

じっと、見続けるほどに。





















「……桜はないけども」



私の手のひらには、桜ではなく、わた雪がほろりと落ちる。


またあのような光景が見れたら幸せであろう、と、私は思い出した光景に想いを馳せる。






















――――――

これで、桜の木に乗っていた雪がその女性にばさーって落ちてきたのなら、ギャグですね。

でも、雪国ではありえる光景です(笑


いいですか。よく覚えておきましょう。

雪原の女性は、



   普段の三倍




        美しい!

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