【短編】プレゼント ‐二次元を愛せよ‐
上地王植琉【私訳古典シリーズ発売中!】
プレゼント
突然、部屋に謎の人物が侵入して来た。あ、ありのまま起こった事を書こうと思う。
……な、何を言ってるのか分からないと思うが、お、俺も理解するのに時間がかかった。
それは、クリスマスイブの夜だった。俺は換気のために窓を開けながら(今思えばこれのせいだったかもしれない……っ!)、自分の机で作業をしていた。机の上に置いたミニクリスマスツリーに、自分の欲しいものを書いた紙を吊るしていたんだ。
もちろん、この作業には意味がある。皆は『七夕』という行事を知っているだろうか、笹に短冊をかけて星にお願いするという、アレだ。
『地球から何千光年も離れた織姫や彦星に伝わるのなら、サンタさんにも伝わるだろう』と、俺は短冊にヒントを得てそれを毎年やっている。
名付けるのなら、『クリスマス短冊作戦』だ。七夕なのかクリスマスなのか実にややこしい所だが……まぁ、そういう事だ。
「……頼むぞ」
俺は書いた紙を吊るし、パンパンと手を叩いてから神社のお参りように一礼した。
別に意味はないが、気持ちだ。
「よし、寝るか」
俺は顔を上げて、ベッドに入ろうと毛布を広げた。その時だった。
「Ho,Ho,Ho……Merry Christmas!」
「!?」
俺は思わず振り返ったね。振り返らずにはいられなかった。
「なっ……」
そして、目を見開いて文字通り絶句した。突然の来訪者に、言葉が出てこなかったんだ。
白のトリミングのある暖かそうな赤い服に、赤いナイトキャップ姿。身長は俺よりも高く、まず日本人ではない。口元には長い白ヒゲを生やしており、絶対に健康診断に引っ掛かりそうな太い腹には、長年使用しているのであろう薄汚れた革ベルトが巻かれていた。
「…………」
俺は、この老人の正体を知っていた。直感的に理解したのだ。
この聖なる夜に暗躍する者を、俺はただ一人しか知らない。
Santa Claus(英語発音の片仮名表記ならばサンタクローズ)……その人だった。
「サンタ……さん」
俺は感激のあまり、膝をついた。頬を紅潮させ、まるで洗礼を受けるキリスト教徒ごとく(クリスマスにぴったりな表現だろう)宙を仰いだ。
幼き頃より玩具を貰っている恩人、聖ニコラス、コカ・コーラの宣伝の方……どの偉い人よりも比べ物にならない憧れの人物が、俺の目の前に立っていた。
「……ホッホッホッ、今晩は。突然お邪魔して、すまないね」
……流石は世界のサンタさん、日本人もビックリな流暢な日本語だった。
やはり、一晩で世界中を廻るだけの事はある。
「あ、どうも……遠路遥々、グリーンランドからご苦労様です」
「ホッホッホッ、なんの事はない。一年に一度の大行事だからね」
サンタさんはそう言うと、机の椅子に腰を下ろした。
体重で、椅子がぎしっと嫌な音を立てた。
「あの……それで、一体何の用ですか?」
「ああ、トナカイの休憩中なんだが……外も寒いのでね、少し休憩しに来たんだよ」
「隣にネトカフェありますけど……」
「あそこはいかん。一度遊び始めたら、ズルズルと長引いてクリスマスが終わってしまう。特に、日本の漫画は面白いのでね」
流石は日本が誇るサブカルチャー。グリーンランド人もを掴んで離さないらしい。
「な、成る程……」
確かに、サンタさんに風邪でも引かれたら困る。
そんなニュースが流れれば、世界中の子供たちがガッカリしてしまうだろう。
「あ、なら何か食べますか? そう言えば、夕食の沖縄そばが台所にあるんですけど……」
「いや、それは結構。最近、健康診断に引っ掛かったばかりでね。ダイエットしているんだよ」
「はぁ……」
そのお腹で言われると説得力がある。論より証拠というやつだろうか。
そして、やはりサンタさんは健康診断に引っ掛かかっていた。
子どもたちの希望……健康には気を付けてほしい。
「ん? ……と、これは何かな?」
サンタさんは机の上におかれているツリーを見て、不思議そうに首を傾げた。
「ああ、それは『クリスマス短冊作戦』のツリーです」
「クリスマスなのか七夕なのか、どっちかね?」
おお、流石はサンタさんだ。ツッコミも予想を裏切らない。七夕という行事も既に承知らしい。
「……なに、ええっと……」
サンタさんはその中から一枚を掴むと(というか、今年の俺のお願いは一枚だけ)、老眼なのか眉間にシワを寄せてじっと見た。
「……『彼女が欲しい』?」
「何とかなりませんかねぇ……」
「…………」
絶句、といったようなサンタクロース。無言のまま俺をじっと見つめる。
なにこれ、身長もあるし変な迫力があって下手に説教する教師よりも怖いんだけど。
「すまない。私の力では……無理だ」
……やがて、サンタさんは小さく頭を下げた。
「そ、そんな……」
「今まで……どんな子供たちのお願いも叶えようと頑張ってきたが……これだけは無理だ」
「それって……っ!」
俺は頭を抱えて立ち上がった。
非リアは、非リアのままに……男は容姿で決まってしまう。
『中身が全てだよ』という人はいるだろうか。いや、いない。(反語)
ランクで言うと平均の下に位置する俺がどれだけ努力しようが、所詮は無駄だということか……。クリスマスの街には恋人がうじゃうじゃ、公園でもカップルがいちゃいちゃ……なんだろう、リア充消滅しろ。
「いや、そうではない! 『人の心』は、作ることもできないし、金で買えるようなものでもない……許してくれ、私の力不足だ」
「…………」
なんだか、泣けてきた。なんで俺はクリスマスイブにサンタさん直々に謝罪されているんだろう。こんな残念な事ナイヨ?
「せめて……生命錬成の術式を完成させられれば! 君の彼女を創ってやれるのに……!」
「いえ、そこまでせずとも……」
サンタさんは中々恐ろしい事を言う。倫理的にどうなのだろう……アウトか、やっぱり。そんな人工生命体ホムンクルスとの恋愛なんてヤダ。まだ、アイドルなんかに走った方がましだと思う。
「……すまない。来年こそは」
「いや、いいです!」
「しかし……」
「ほ、本当にいいですから! そ、それより何かゲーム下さい! DSでできるやつ!」
基本的に俺はゲームをしないので、子供の時には遊んでいたDS Liteブルー以外は持ってない。
「そんなのでいいのか?」
「はい! ホムンクルスの彼女よりかは、ずっと!」
「ソフトは?」
「な、何でもいいです!」
「ふむ、分かった」
サンタさんはポケットからメモ帳(ちなみに、雪に濡れないよう防水仕様らしい)を取り出して、何かを書き込んだ。椅子から立ち上がり、踵を返して窓枠に足をかけた。
「ホッホッホッ、では……メリークリスマス!」
ガシャガシャとパイプを伝う音がして、やがてサンタさんは地面に降りた。角を曲がって、視界から消える。
普通に階段使って玄関から出ればいいのに……大変失礼な事ながら、変質者を連想してしまった。やっぱり現代の家は不便だな、セキュリティ的にも煙突的にも、サンタクロースに優しくない。
「……よし、寝るか」
何とも言えない面倒な空気だけを残して、サンタさんは去っていった。元はと言えば、俺が短冊に書いたのが原因なのだが……。
「ふわぁ~」
俺は大きな欠伸をしてから、布団の中に潜った。
夢に落ちる前、どこからかトナカイの鈴の音が聞こえた気がした。
そして、翌日。
クリスマスの翌朝、俺は目覚ましの音で目覚めた。
机の上には、何故か『ラブプラス』が置かれていた。俺的には『+』の方が良かったが……この際、文句は言うまい。
……サンタさん、ありがとう。
Fin.
――
中学だったか小学生だったか、まだ小説を書き始めて間もない頃の黒歴史作品。
あの頃はSwitchもなかった。時代を感じる。
【短編】プレゼント ‐二次元を愛せよ‐ 上地王植琉【私訳古典シリーズ発売中!】 @Jorge-Orwell
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