第二尾 ピチピチ鮮魚ドン♡

 勝海は息を呑んだ。


「こいつぁたまげた……」


「……♡」


 人魚は頬を染めて期待の眼差しで漢を見つめている。


 (見惚れてる……やん♡ そんなにお胸を見つめないで…? 期待しちゃうから……♡)


 しかし人魚の卑猥な妄想とは裏腹に、漢の思考はこうだった。


▶1、リリース(逃がす)

 2、活き〆

 3、役所に連絡する


 ぐぬぬぬぬぬ……


 漢は悩んだ。悩みに悩んだ。全身の血管がはち切れんばかりに、、、悩んだ。


「ええい! ままよ!」


(え……? マザコンかしら……?)


 人魚のズレた心配を余所に、漢は人魚を担ぎ上げ、軽トラの荷台に放り込む。


 シートをかけ、クーラーボックスに入ったありったけの氷をぶち撒けて、漢は運転席に飛び乗った。


(まあ……何も言わずにお持ち帰り……どこまでも付いていきます♡)



(それにしても、口の針が痛いわ……まさか……ピアッシング……!? わたし、すでに彼のモノなんだわ……!? きゃああああ♡)


 揺れる荷台に頭がクラクラする。


 しかし人魚はそれすらも恋と錯覚する。


 やがて息が苦しくなってくる。


 それすらも、恋と錯覚する。


 朦朧とした意識で再び担ぎ上げられ、さあベッドイン♡ と思った人魚が放り込まれたのは、冷たい水の満たされたバスタブだった。



 生かすにしろ、〆るにしろ、鮮度が命……!



 漢は水の量にぴったりの天然塩をバスタブにブチ込むと、ピシャリと風呂場のドアを閉めて出ていった。


 冷たい人工海水にブクブクと沈みながら、人魚がこれから始まる新婚生活に胸を躍らせていることを、漢はまだ知らない。

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鮮魚主婦*魚崎真珠はマーメイド 深川我無 @mumusha

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