名探偵ヤクザの違法推理

ちびまるフォイ

密室のケジメ

「きゃーー!! し、死体よ!!」


「だ、旦那様!!」


とある人里離れた洋館で主人が殺された。

完全に密室で全員にアリバイがある。


そこにパイプを吹かせた探偵がやってきた。


「みなさん落ち着いて。現場はそのままに」


「あなたは……?」


「なにを隠そうわたしは名探偵。

 ホーロック・シャームズです」


「あの有名な名探偵の!?」


「そうです。この事件もたちどころに解決しましょう。

 ではまずみなさんの昨夜の行動を……」


探偵が全員に聞き込みをはじめようとしたとき、

どすどすと無作法に現場に立ち入る男がひとり。


名探偵はあわててそいつの服をひっぱった。


「おい君待て待て待て!! 現場を荒らすんじゃない!」


「あぁ?」


引っ張られた服がまくれ、肌のゴツい入れ墨が顔を出す。


「や、ヤクザ……!?」


「さわんじゃねぇ。俺の背中の龍がこの事件は怪しいつってるんだ」


「犯人お前じゃないのか……?」


「密室で殺すなんて、裏社会の人間はやらねぇ。

 仁義を通さない殺しなんて特にな」


ヤクザは部屋を見回るだけで何かを掴んだようだった。


「なるほどなぁ。この密室は鍵穴を使ったわけか。

 んで、こいつをそうやって殺したと」


「トリックがわかったのか!?

 名探偵である私よりも先に!? どうして!?」


「ヤクザは犯罪のプロフェッショナルなんだよ。さて、と」


「おいおい。次は何する気だ?」


「アリバイで嘘ついているやつがいる。真実を吐かせる」


「じゃあなんで手に刃物持っているんだ!?」


名探偵の静止など小鳥のさえずりにしか聞こえてないのか。

ヤクザは構わず全員をひとりひとり脅しにかかる。


「お前、嘘付いてるだろ」


「ひいぃ! めっそうもございません!」


「あそう。でも給仕のひとりはお前が嘘ついてると言ってたが?」


「あいつ! なんてことを!」


「でも俺はお前を信じたいからなぁ。どっちかが嘘付いてるよな?

 嘘つきは義理が通ってないよな。それじゃその舌もいらないよな」


「やめへくだはい!! 真実をおはなひしまふ!!」


「おい。今度嘘ついたらどうなるかわかってるよなぁ?」


「私は……私はどうなるんですか……?」


「お前にゃなにもしないよ」


「ほっ……」


「ただ、お前のもとに家族の舌が贈られるかもな。

 嘘つきは根本から絶たなくちゃいけねぇから」


「真実しか話しません!! もう許してください!!」


ヤクザはこの館に住む「怪人28面相」よりもずっと恐ろしい。

脅迫と尋問とときに暴力を使って、完璧なアリバイを崩しきった。


名探偵が必死に推理しているうちに、

ヤクザはどこからか持ち込んだショベルカーで隠し扉を破壊。


隠れていた真犯人を発見した。


「わぁあ!? なんでここが!?」


「わしらヤクザがどれだけくみに隠し部屋あると思うとんじゃ!

 こんな付け焼き刃の安っぽい隠し部屋一発でわかるわ!!」


「た、助けてーー!!」


犯人はマントをはためかせて猛ダッシュ。

けれどヤクザの身体能力をなめてはいけない。


闇金から逃げる負債者をどこまでも追い詰める

強靭な体力と、恐ろしいまでの脚力が犯人を逃さない。


「捕まえたぞ。怪人28面相」


「きゃああーー!」


とりあえずやかましいので顔に数発。

このあたりの暴力に対する障壁が無いのがヤクザらしい。


鼻血を出した犯人はひたすらに哀願する。


「なんで……なんでそんなに事件を解決したいんですか……」


「あ?」


「あなたも"こちら側"でしょう……?」


「全然ちがう。お前のような筋を通さねぇやつと一緒にするな」


ヤクザのするどい眼光が光る。


「お前は自分の感情で人を殺すようだが、

 ヤクザは仁義で人を殺す。全然違う。筋が通ってないだろ」


「そんな……」


「俺の背中の龍があるうちは、

 この目の届くすべてに筋を通すのが俺のやり方だ」


「私をどうするつもりだ……?

 警察につきだせば、ヤクザのお前だってただじゃ済まないぞ」


「警察に渡してお前がどうなるんだ?」


「へ?」


「ヤクザにはな。自分でしでかしたことのケジメをつけるんだ」


「……?」


「お前は人を殺して、まさかケジメもつけず

 カタギの生活に戻れるなんて思っていたのか?」




それからしばらくして警察が館に到着した。

すでにヤクザの姿はなかった。


「名探偵ホーロックさん。あなたがここにいたんですね」


「え、ええ……まあ……」


「今回も事件を解決したんでしょう?」


「そっ、そうですね……。しかし犯人は逃げてしまって」


「この絶海の孤島から?」


「はい。非常に逃げ足の早いやつで、取り逃がしました」


「そうですか……。では2件の殺人について教えて下さい」


「2件? 館の主人が殺された1件では?」


「何を言ってるんですか、ホーロックさん。

 もう1件あるでしょう?」


警察は館の外の海から引き上げられた水死体の写真を見せた。


「足をコンクリで固められて投げられてたんです。

 これが2件目の殺人ですね」


「え……なにそれ知らない……」



それが怪人28面相だということは、

その顔を見たヤクザしか知り得ないことだった。

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