悪役令嬢×雪だるま
藤泉都理
悪役令嬢×雪だるま
好きになった人が魔王だった。
だから、家の財力権力人脈を丸ごと全部魔王に捧げた。
私は親兄弟親族友人知人先生方を不幸のどん底に陥れた悪役令嬢として名を馳せた。
気分はよかった。すこぶるよかった。
悪評が広まれば広まるほど、魔王の力になっているのだから。
けれど、
「済まぬ。
信念がごっそり抜け落ちたふにゃちん野郎に用はない。
こっちから願い下げだ。
そう思ったけれど、こちとらすべてを魔王に捧げたのだ。
捧げた挙句に捨てられるのだ。
ぶん殴ってやりたい。
ぶん殴ってやりたい。
ぶん殴ってやりたい。
いいや、ぶん殴るだけでは足りない。
倒してやる。
魔王を倒して、私は最期まで悪役令嬢で在り続けてやる。
しかし、悔しいかな、悲しいかな、腹立たしいかな。
私に魔王を倒す力はない。間近で見てきたから分かる。
あれは人がどうにかできる生物ではないのだ。
「まあ。だから。聖女も恐ろしい生物って事で。お似合いだったのよね」
ぼすぽすぼすぽすぎゅっぎゅっぎゅっぎゅぎゅ~~~。
たっぷりと塩水を含んでいるから、さぞかし硬い雪だるまができるでしょうよ。
「どうせ私は、凡人よもう。親のものを差し出す事しかできない女よ。はあ。もう。冷たい。熱い。痛い」
風は止んで、雪も止んで、降り積もったふかふかの雪の上にかれこれ何時間居るのだろうか。
ずっと膝を曲げ続けていて、姿勢が固まってしまった。
動けない。
いいかもう。
もういいか。
疲れた。
少しこのまま眠ろう。
「あんたはどれぐらい溶けずに居られるのかしら? ふふ。みものね。私が凍りついて死ぬのが先か、あんたが溶けて消えてしまうのが先か」
小さく笑って、目を瞑った。
どうせなら、目と鼻と口を付けてやればよかった。
「ほら。しっかりしろ。魔王を倒すんだろ。立て。立つんだ。蓮歌」
「あんた。雪だるまのくせに。何で、そんなに、熱血なのよもう」
一か月後。
深淵の森の中でしんしんと降り続ける雪の静寂さを盛大に打ち破るのは、凍りつかずに生き残った蓮歌と溶けずに生き残った雪だるまだった。
「ちょ。ちょっと。休憩。はあ。熱い。ねえ。今日のご飯、なあに?」
「おまえの努力次第で決める」
積雪の中に背中から倒れ込んだ蓮歌は、少しだけ身体を雪の中に埋もれさせながら、じゃあ頑張らなくちゃねと綺麗に笑った。
「打倒魔王!!!」
「ノンノンノン。違うだろ。魔王なんて通過点の一つに過ぎない。打倒世界!!! だろうが」
「あっはは。もう。そうね。打倒魔王なんてみみっちい目標を立てるなんて、悪役令嬢の名が泣くわね。ええ。いいわ。打倒世界。目指してやろうじゃない。付き合ってくれるんでしょうね?
「もちろんだぜ。蓮歌。なんせ俺様はおまえの強いパッションに感銘を受けて、こうして永らえているんだからな。消えさせるんじゃねえぞ」
「もちろんよ」
(2024.12.23)
悪役令嬢×雪だるま 藤泉都理 @fujitori
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