第10話 祈年祭1
精霊教会からの依頼は各農村で行われる祈年祭の光神官代理という依頼だった。
祈年祭とは作物を作り始める時に豊作を祈るお祭りで、各農村の精霊教会で光魔法を使う儀式があり、それを行うのが光神官の役割だそうだ。前回も聞いたが今は光魔法を使える神官が少ないため、光魔法を使える者を代理で雇って派遣しているとのこと。ただし表向きは教会本部から派遣された光神官という身分になっている。
施療院での光魔法での治療が評価されて指名依頼が来たとのこと。ちなみに私は施療院で光魔法を使っていないが魔力が高いという報告は上がっているらしく光魔法の適性もあるということでクラーレットの奇跡全員への指名依頼となっていた。
依頼の光神官代理については一人につき4か所の農村を訪問することになっている。つまり、3人で12箇所の農村を訪問するとのことだ。1箇所につき4日程度の滞在を予定しているとのこと。
補佐の神官を一人つけるので基本的にはその人に従って儀式をすればよいということだった。一応、滞在中に休息日もあり自由に行動してよいとのことで狩りに行ってもいいということは精霊教会へも確認済みである。ただし、その時は神官の身分ではなく冒険者を名乗ること。神官業務に支障が出るような活動は禁止するとのことだった。
報酬は一人30万サクル。それに加え食事や宿泊はすべて教会側が用意してくれるからただ。半月程度で3人合わせて90万サクル、そのうえ他の費用がほとんどかからないとなるとかなりの好条件だというのがキュレネたちの感想だ。
一通りの説明を聞いてキュレネが疑問点を質問する。
「この依頼中に狩った魔物はパーティとしてカウントされますか?」
「まあ、3人パーティに依頼しておいて3人が別の場所に行くというイレギュラーな依頼なのでパーティとしてカウントしても個人としてカウントしてもどちらでもいいですよ」
どうやらキュレネは獲得するギルドポイントに差がつかないように心配していたらしくパーティでカウントし平等に分配してもらうよう頼んだ。
「なあ、せっかく3人バラバラなところに行くんだから、この依頼中にどれだけ魔物を狩れるか勝負しようぜ」
えームート何言っちゃってんの?
「そうね、そういうやり方をした方が張り合いがあって多くの魔物を狩れそうでいいわね」
えーキュレネも賛成なの?
「わかった」
どちらかというとそんな勝負やりたくないんだけど、一人なら女神モードを試せるチャンスでもあるしちょうどいいかも。
「じゃあ、獲得したギルドポイントが多い人が勝ちね」
「負けたやつは罰ゲームとして、どぶさらいの依頼を受けて稼いだ金で焼肉おごるということで」
「いいわ」
「はー」
気のない返事で一応OKする。
そういえば掲示板にいつもどぶさらいの依頼貼ってあるわ。人気がないから残っているのかしら?
「ん? ちょっと待て、私いつもついて行ってるだけだからどこに魔物がいるかとかわからないよ」
「あー、村人に聞けば、近くの山や森を教えてくれるから大丈夫だぞ」
「いやいやいや、山や森のどこに魔物がいるかとかわかんないんだけど。魔物がいる痕跡とかを探しながら魔物を見つけてたんだよね。例えば、食べた残骸とか、足跡とか」
「あー、フィールドサインな、そういうの辿って魔物を狩るのは慣れが必要だから素人は難しいぞ。そんなの見つけなくても、強い魔物は、餌がやってきたと思って向こうから出てきてくれるからそれを返り討ちにすればいい」
「えーそれ本当?」
「まあ、そうね、でも、ちゃんと村の人に聞いて強すぎる魔物がいるところは避けた方がいいわね」
そんな適当でいいのかなぁ......
今日は祈年祭に行くための準備として町の精霊教会の神殿に来ている。紫の神官服が支給され、着替えると補佐として青色の服をきた神官を紹介された。私の補佐担当の神官はイネスさんという30代後半という感じの女性だ。なんちゃって神官の私の方が紫の神官服で形式上身分が上なんだけど、実際はこの人の指示に従うことになっている。
今回の祈年祭で私の担当はランツ村、パイース村、ホーラ村、ナチオネ村の4箇所だ。移動は精霊教会マークの付いた馬車だ。
私にとっては初馬車だったので、どんな感じか楽しみにしていたのだが出発してすぐに嫌になった。とにかく乗り心地が悪い、まあ、道が悪いからしょうがないんだけどこれで数時間はつらい。身体強化されているからまだ何とかなっているのだが......
同行したイネスさんは、なぜか乗り心地など関係なく元気にしゃべりまくる。
どうなっているの?
ランツ村へ到着し、そのまま精霊教会の敷地まで馬車で入る。
ランツ村精霊教会責任者のヴィレラ神官に挨拶をする。50歳くらいの男の紫神官だった。
その後、私用の宿泊部屋に案内される。そこそこきれいな一人部屋、待遇は良いみたいで安心する。
一息ついた後、呼ばれて、明日の祈年祭についての段取りの説明等を受ける。
先ずは、精霊教会の前に集合してから村長や村の有力者と一緒に畑を一回りする
途中で
私の役目は祭壇の魔導具操作である。入り口側から見て祭壇の左側に座り、操作をするとのこと一般の参加者から、私の右側が見えるという感じだ。ピアノの演奏会みたいな配置に近いかもしれない。
魔導具の操作は祭壇の半球状の推奨みたいな部分の触れるだけ、あとは自然に分かるようになっているらしい。
ヴィレラ神官のお話し中に操作を終わらせ、話が終わるのを待ってから魔導具へ魔力供給することになるそうだ。そのタイミングはイネスさんから合図が出るらしい。魔力供給については自分の魔力が足りなくなりそうなら早めに中断して良いとのことだった。目安として魔力の2割を残すぐらいとか。結構優しいと思ったら、途中で倒れると儀式に支障があるとか、他の村も回るから、ここで魔力切れ起こされたら困るとかの理由で優しいわけではなかった。
正直、魔力の残りとかの感覚がなくてよくわからない。けどたぶん大丈夫 いくら魔法使っても何ともないし。
最後に注意事項として儀式中は常に背中を伸ばし堂々とした姿勢でお願いしますとのことだった。
今日は儀式の日。
朝から精霊教会の前に人が集まっている。ヴィレラ神官から村長のアマンドさんを紹介される。白髪、白髭のやせ型ちょっと怖い顔をした60過ぎの男性だ。
午前中は村長をはじめ村の有力者5人とヴィレラ神官とその補佐の緑神官、私とイネスさんの神官4人で畑を視察する。
かなり広範囲に農地があり数時間かけて回ることになる。途中、木でできた高い
最後の櫓の上では村長のアマンドさんから真剣な顔で
「最近、収穫量が落ちてきているので、一昨年からこの一帯で農地を広げて収穫量を補おうとしているのですが新しい畑での作物の出来が悪くあまり収穫量が上がらないのです。ぜひとも神官様のお力で何とかしてください」
とお願いされてしまった
そういうのって神様にお願いするのではないのって思ったけど、ここの神様って、知識や力はあげたからあとは自分たちでやりなさい感じなんだよね。
そもそも、私の力で収穫量があがるかわからないんだけどここは無難に
「できるだけのことはやってみます」
と答えてみた。
精霊教会に戻っていよいよ儀式だ。礼拝堂は村人で満席になっていた。
ヴィレラ神官が話を始め、私は、祭壇の魔道具に触れる。
光魔法適性確認
土魔法適性確認
起動します。
という言葉が目の前に浮かんだ。
あれ、土魔法の適性もいるの?そんなこと一言も言われなかったのに。
農地範囲の設定
農地情報を読み取ります。
しばらくすると
読み取りエラー
うそ、どうするのこれ
壊れてるんじゃない?
このメッセージは直接頭の中に表示されるような感覚で周りの人には見えていない様子。
もう儀式中だし他の人に聞ける雰囲気じゃないんだけど......
もう一回やってみよう。
魔導具から手を放してもう一度。
光魔法適性確認
土魔法適性確認
起動します。
農地範囲の設定
農地情報を読み取ります。
読み取りエラー
同じだよ。
まずいな、これどうすればいいんだ。
脂汗がでてきた。
そういえば、農地の全景確認が重要としつこく言われていたっけ。ということはもしかして私の頭の中から農地情報を読み取るってこと?魔法絵師の時も読み取れないって言われたから自分からイメージを送る感じで......
すると、さっき見た農地の映像が加工され航空写真のように上から見た画像が目の前に浮かぶ。
作物成長支援範囲:赤枠
と表示され、畑の輪郭が正確に範囲指定されていた。
なにこれ、これが魔導具なの?完全なオーバーテクノロジーって感じがするんだけど
私が見た情報を読み取って範囲指定をしてその範囲の作物を魔法で成長支援するってこと?なんでこんなことができるの?どうなってるのこの世界。
と驚いてしばらく停止してしまった。
やばいやばい
ふと我に返って改めて目の前の画像を見ると
下の方に
1.設定完了
2.修正
3.過去情報参照
とあったので、過去情報参照と頭に思い浮かべると
昨年の農地図と指定範囲が隣に表示された
今回の比較すると村長が言っていた新しい畑部分が範囲指定されていなかった
画像を見るとすでに畑自体はできているように見えるのだが......
なんで?
と疑問に思ったら
前回の魔道具操作者の魔力が不足していたため、新しい部分への対応を見送りました。
と返事が来る。
うそ、この魔導具返事をするんだ。
驚きの連続である。
とりあえず今回の範囲に異存はないので設定完了とする。
すると、
作物成長支援
土壌改良
2つの項目について実施をする、しないの選択画面になる
デフォルトは両方とも実施するとなっている。
なにこれどういうこと?
作物成長支援:作物自身の成長力を高める光魔法の使用
土壌改良:作物の生育に必要な栄養素のバランスを整える土魔法の使用
との追加説明が加わる。
なるほど。
両方とも実施で。
これで準備完了です。
魔力供給の画面?に切り替わる。
魔力供給はヴィレラ神官の話が終わってからだったね。
しばらく待っているとヴィレラ神官の話が終わる。
「では皆様お祈りをいたしましょう」
というと村人は手を組んで祈りの姿勢をする。
「豊作でありますように」
ヴィレラ神官とお祈りをする。
ここで補佐のイネスさんが魔力供給の合図があった。
魔力供給を開始する。
続いて村人たちがお祈りをする
「「「豊作でありますように」」」
先ずは光魔法の魔力を供給する。
祭壇が白く輝くと村人たちから歓声が上がる。
「「「オー」」」
なにやら大騒ぎになってきた。
次に土魔法の魔力を供給すると祭壇が金色に輝く。
さらに歓声が上がり狂喜乱舞するものまで現れた。
そのまま、礼拝堂の儀式は終了となり。外の祭り会場で飲み食いが始まった。
話を聞くと最近こんなに強く祭壇が輝いたことはなく、おまけに豊作間違いなしと言われる金色に輝いたことで喜んでいるらしい。しかも最近不作だっただけに喜びもひとしおなんだとか。
私も外の祭り会場に行くと光神官として感謝され多くの人からお酒を注がれた。
ここの人たちはお酒飲む年齢なんてないのね。初めて飲むお酒はあんまりおいしいものではなかった。さらにアルコールは状態異常を引き起こす毒として自動的に無毒化が行われていたので酔うこともなく大量に飲み続けることになった。
オーバーテクノロジーの祭壇のことが気になっていたのでヴィレラ神官に質問すると
精霊教会の本拠地であるウィステリア神国にある大神殿でのみ製造可能な神様より伝わった魔導具だという返事があった。
やっぱりこの世界、神様が直接干渉してるのか?
神様に合うことってできるんですかねと尋ねると基本的には神様から連絡がきたときのみ、しかも最上位の神官でないと会えないという話だった。
うーんなんだか微妙な神様だな。
そんな感じで最初の村での祈年祭は無事終えることができた。
次の更新予定
女神を名乗ってもいいですか? サチオウ @sachioh
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